(38)第1911号 令和2年2月11日(火)発行 読むとほとんどが、例えば「世の中の善のため」とか「利他の心から」というような、目に見えない感性から湧きあがった熱い想いを明確に持っています。フレームワークから生れた手法で大成功した人は聞いたことがないです。 私はイノベーションを生み出すには異分野との交わり「交差点」が重要な要素だと考えており、本連載でも何度か言及してきましたが、この異分野交流において、スタート時点で、それぞれの領域を超えて融合する第一歩を踏み出すには、理屈や損得ではなく、同じ目的に向けて「感性」で共感することがエネルギーになります。 「感性」やこれに類する「暗黙知」と聞いて、なんだかよく分からないという人も多いと思います。そんな人は、自分が好きな芸能人の顔を思い浮かべてみてください。その上で、なぜその芸能人の顔が好きなのか論理的に説明してみてください。例えば、それが壇蜜さんだったとする。目が好きなのか? そんなこともない。口もと? それも違う……。というように論理的に説明するのは難しいのではないでしょうか。極端な例を出しましたが、「数値などにより論理的に説明できないもの=感性」と考えてもらって差支えないと思います(色香を感じるのも理屈でなく感性?)。目に見える世界と見えない世界を意識する 下水道事業においても、今の不確定な時代に適応し、イノベーションを起こすには、従来の左脳による「論理性」だけでなく、右脳を使った「感性」が必要になる。こうした思いから「アート下水道」を提唱し、女子美術大学の教授や生徒たちとの交流など、少しずつその取り組みを広げています。 世の中は「目に見えるもの」と「目に見えないもの」で構成されています。まずはそこを意識することです。前者が「論理性」、後者が「感性」にあたるのですが、他にも「客観」と「主観」、「現実」と「構想」、「形式知」と「暗黙知」などが2項対立にあります。これらの「目にみえないもの」はすべてアートに通ずるものだと考えており、この「目に見える世界だけでなく、見えない世界を意識する」ことがアート下水道の本質であり、コンセプトだと思っています。 感性を磨くことにより、自由で主観的な発想を取り込み、構想力を高め、新たな価値の創造につなげる。その上で、目に見えないものを目に見えるようにする。第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第6回】~感性・主観・構想・暗黙知のチカラ~論理的思考のみへの危惧 もともとアートに興味があったわけではありません。むしろ苦手意識を持っていました。まず絵を描くことが得意ではなく、高校の美術の授業でデッサンして以降“ピカソ加藤”という名誉なのか不名誉なのかよく分からないニックネームをつけられましたし、家族と美術館を訪れても足が疲れて、作品はろくに観ず足早に駆け抜けるのが常でした。この状態がおよそ40年間続いています。 こんな私がなぜ「アート」に注目するようになったのか。ある時、本屋でたまたま目にとまった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周著、光文社新書)という一冊の書籍がきっかけでした。グローバル企業が幹部候補をアートスクールに通わせるのは、単に教養を身につけるためではない。これまでの論理的思考に軸足を置いた経営ではいずれ行き詰まる。これからの時代は美意識を鍛えることで直感や感性を養うべき、という内容で、目から鱗が落ちました。続けて読んだ『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(増村岳史著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)も同様の趣旨で、フレームワークばかり勉強していた私としては大いに刺激を受けました。 例えば、経営戦略を考える時に、しばしばSWOT分析やPEST分析、3Cなど、分析や論理に主眼を置いたフレームワークが使われます。これらは効率的だし、結論に至った根拠を説明するには打ってつけですが、こうした思考方法のみでは、誰でも考えつく、画一的なアイデアしか出てきませんし、結論ありきの説明として使われているように感じます。フレームワークも大切ですが、情報社会の中で他よりも一歩前に出る構想を思いつくには公式では導けない「感性」を養う必要があります。大成功した多くの会社の創業者の話をアート下水道加藤 裕之東北大学特任教授㈱日水コン技術統括フェロー
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