第3種郵便物認可 普及を加速させる4因子 次に水平展開のスピードを上げる方法について考えてみたいと思います。それがコンセプト「普及を加速させる4因子」です。 因子の1つ目は「比較優位性」です。既製品と比較してコスト的に優位かどうか。優位であれば普及は早まります。これはわりと認識されている一般的な理論だと思います。 2つ目は「試行性」です。新しいことをやろうとする場合、規模が大きいなど条件が広いと、その分、失敗した場合の損失も大きく、及び腰になってしまいます。そこで、まずは小さい規模など限られた条件の中で試行的にやれるかどうかがポイントになってきます。よく、お菓子が最初は地域限定で、評判が良ければ全国区にというケースがありますが、このイメージです。 3つ目は「観察性」です。イノベーションの効果の観察が容易で、それが分かりやすく説明でき、誰にでも理解できるものかどうか。ビストロ下水道で例えるならば、汚泥由来肥料でこんなに赤いトマトができましたと一目瞭然に分かれば言うことなしです。ただ、目に見えなくても、これだけ甘くなりましたと数値的な裏付けでも十分だと思います。要は、社会的な意義が観察できるか否かです。 4つ目は「連続性」です。技術で例えると、新技術を導入しても、これまでの技術の使い方から大きなギャップなく使いこなせるかどうかということです。ただ、多くのイノベーションの場合、これは望めません。そもそも既製品と連続性のあるものが果たして本当にイノベーションと言えるのかという問題もあります。そこで、この連続性を保つためのサポートが大切になってきます。佐賀市では、汚泥由来肥料を従来どおり使ってもらうため、農家向けの勉強会を定期的に行い、施肥の方法等をレクチャーしています。ビストロ下水道の普及理論(種まき理論)イノベーションは、ユーザーからすると使い始めは少なからずストレスを感じるものです。このストレスをなるべく軽減させるため、佐賀市のように、イノベーションによって失われる連続性を補うような仕組みが必要です。「再発明」でイノベーションを持続的なものに 最後に、イノベーションを一過性のものではなく持続的なものにする方法について触れたいと思います。その方法は一言でいうと「再発明」です。イノベーションを起こした(あるいは取り入れた)後に、もう1度、自分たちの地域特性を活かした新たな発明をすべきです。そうすれば、そのイノベーションは、地域に根づき、持続的なものへと進化します。 佐賀市でもコンポストにあたって当初は既製の菌を使用していましたが、のちに竹チップを使った独自の菌を開発しました。汚泥由来肥料を使うというイノベーションと、その肥料をつくるための菌を開発するというイノベーション。この二重のイノベーションが佐賀市の取り組みを一層強固にしています。 佐賀市で学んだことはまだあります。それが「クチコミ」の強みです。どんなことでも言えますが、人間誰しも同じ立場の人間の言うことしか信じません。例えばレストランの店長が言う「美味しい」と、そのお客の言う「美味しい」のどちらを信じるかという話です。当然、後者だと思います。そう考えると、水平展開に「上から下へ」は効果がありません。ポイントは「横へ、横へ」だと思います。私としては残念でしたが、国から自治体への通知や助言より、自治体の方が同じ自治体の声を信じて行動されている場面を何度も経験しました。だからこそ、「雨勉強会」のような場を演出していたのです。これが“リーダーシップ”と勝手に考えていました。 そして、「横へ、横へ」の最高の場は酒抜きには語れません。知識には、形式知だけでなく暗黙知があるからです。ただ、飲みすぎると翌朝には全て忘却してしまいますが(笑)。本年も、よろしくお願いします。 第1909号 令和2年1月14日(火)発行(37)※デザインは諸富里子さん山形の地酒「有あり加が藤とう」
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