(38)第1901号 令和元年9月10日(火)発行 針」にも近いですが、コンセプトはもっと端的に本質を表現することが肝要です。例えば「時は金なり」など、メタファー(隠喩)を使うとより共有が円滑に進むと思います。 私は今年の7月まで国交省で下水道行政に携わってきましたが、新たな施策を考える時、この「コンセプト」を常に意識していました。この連載では、これまで私が大事にしてきた様々な「コンセプト」を振り返り、時に再検証することで、多様化する下水道事業の現在、未来を思索していきたいと考えています。雨水管理を支える4つのコンセプト 前置きが長くなりましたが、連載第1回は「雨水管理」をテーマに、私が考える4つのコンセプトを紹介します。 1つ目は「ハード&ソフト&自助」です。これは国交省が平成16年度に立ち上げた「下水道政策研究委員会・浸水対策小委員会」(委員長:古米弘明・東京大学大学院教授)で議論したコンセプトです。私は当時、下水道事業課の企画専門官を務めていましたが、浸水対策専門の委員会はそれまで国交省で実施したことがなかったこともあり、議論が白熱し、事務方としても睡眠時間を削りつつ(笑)、職員一丸となって知恵を出し合ったことを覚えています。たしか「雨チーム」という名前で下水道事業課と流域管理官で課をまたがるプロジェクトチームを編成して議論したと思います。 気候変動の影響によりゲリラ豪雨など降雨の激甚化が叫ばれていますが、当時から降雨強度の高い雨が増大していることが問題になっていました。都市化の進展で浸透面積が減少して雨水流出量が増加することにより、浸水被害の危険箇所はどんどん増えていくが、整備が追いつかない。さらに、財政状況も厳しい。ハード対策一辺倒では時間とお金の制約がある。この問題を“早く”かつ“安く”解決するためにはどうしたらよいか? そこで出てきたのが、住民に自ら動いてもらう、ハザードマップなどの「ソフト対策」や止水板や土のうを設置するなどの「自助」という考え方です。浸水対策においてハード、ソフト、自助を組み合わせることは今では言い古されたようなコンセプトですが、「ハードだけに頼らない」という決断、方向転換は、当時は思い切った視点でした。第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第1回】コンセプトとは何か 連載を始めるにあたって、まずは連載の趣旨やタイトルに込めた思いを説明します。連載タイトルは、“コンセプトから下水道を考える”を略して「コンセプト下水道」としました。 「コンセプト」とは何か。よく日本語で「概念」と訳されますが、この連載では「新しいモノの見方」と定義したい。「光の当て方」と言い換えてもいいかもしれません。 コンセプトを設定することで、「目的」に向けた、具体的な「目標」の達成のために組織の気持ちが1つになり、意識や知識が結集する。それにより、新たなイノベーションが生まれる。コンセプトにはこうした効果があると考えています。 「アイデア」や「発想」とも違います。アイデアや発想にはそれらが出てきた根拠が希薄で、まだ「思いつき」に近い状態。一方、コンセプトには、その背景や意義、因果関係が明確になっている必要があります。そのためコンセプトは「アイデア」と「理論」の中間段階にあるものと考えています。アイデアを客観的な目で吟味し、はじめてコンセプトになる。そしてコンセプトを突き詰めることで理論が形成されていく。こんなイメージです。 例えば「自動車」です。我々は当たり前のように自動車が存在する世界を生きていますが、自動車が誕生していない時代に出てきたコンセプトが「馬なし馬車」でした。「馬なし馬車」というコンセプトがあったからこそ、自動車というイノベーションがうまれたわけです。 ともかくコンセプトは組織の中で共有されることを前提としています。そういう意味では、「目標」や「方雨 水 管 理加藤 裕之東北大学特任教授
元のページ ../index.html#1