コンセプト下水道 第21~38回
7/70

(42)第1946号 令和3年6月29日(火)発行 談会「スーパー公務員」のような人)。 次にビジネスモデルの開発や具体的なプランづくり、PDCAを回すために必要となるのが「海」タイプ。海上での現在の位置をしっかり確認しながら「太陽」が描く新発想や構想の実現に向けて海図を書く人。研究者やプランナー、政策立案者に多いタイプで膨大なデータ分析やプランづくりが得意です。私が長年過ごしてきた職場もこのタイプが圧倒的多数で、様々な海図の引き方を議論します。ただ、現実主義なので太陽がいないと、イノベーションの本来目的や社会的価値を見失いがちになります。 社会とのコミュニケーションにより普及展開を加速するために必要なのは「風」タイプ。フィーリングで物事を判断する人で、感性が豊か。例えばキャッチフレーズが得意で「風」を起こす人。マスコミ関係者にもあてはまると思います。刺激的な電車の中刷り広告のフレーズをつくれるような人です。 私自身を振り返ってみると、「水の天使」のプロデュースのスタートで集まった少数のメンバー、「ビストロ下水道」の構想時点から現在の政策動向などを振り返っても、太陽と海と風の化学反応によるイノベーションという仮説は当たっていると考えています。もちろん、国土交通省の政策にも適合できます。ただ、技術開発のモデル地域や予算制度はつくるけど、水平展開・普及という面では、まだ方法論が確立しているとは言えません。もしかしたら海タイプが多いから? または普及まで真剣に議論する余裕がないからかもしれません。  本連載で何度か紹介してきた佐賀市のビストロ下水道を見てみましょう。佐賀市には「市民の健康」という構想を持つ前田純二さんというイノベーターがいます。言うまでもなく、「太陽」タイプの人です。次に、その前田さんのビジョンに共感した海タイプの人が加わります。まずは、地域のごく一部の農家が試行的な施肥を行い美味しい農作物という肥料効果の「見える化」をします。また、市の職員は重要政策として位置づけるなどの汗をかきます。さらに、地域全体に普及させるために、デザイナーの諸富里子さんが、前田さんのビジョンや地域の活動をキャッチ―な絵やスローガンに落とし込み、「風」を起こすことに成功しました。どんなに熱いハートを持つイノベーターの前田さんでも、一人では出来なかったでしょう。失礼ながら、前田さんは目に見えない構想は描けますが、それを農家や市民が見て感動するような美しい絵をデザインすることは出来なかったと思います。化学反応を加速する触媒は「共感」 イノベーションを起こす化学反応とは、異質の知識の反応だけでなく、太陽と海と風という異なる気質の化学反応で起こる、というのが私の仮説です。一人で【参考文献(一部)】◦ 『人類とイノベーション』(マット・リドレー著、ニューズピックス、2021年3月)◦ 『イノベーションの普及』(エベレット・ロジャース著、翔泳社、2007年)◦ 『生命のメタフィジックス』(山口實著、形而上学研究所、TBSブリタニカ発売、1993年)◦ 『共感が未来をつくる』(野中郁次郎著、千倉書房、2021年3月)◦ 土木学会・環境システム工学研究会 研究論文講演集「普及理論に基づく下水汚泥の再利用についての研究」(加藤裕之、2016.10.23)はイノベーションは起こせません。自分がどのタイプにあたるかを自覚した上で、足りないタイプを仲間に引き入れることです。あなたが海なら、太陽と風を探し少数精鋭のチームをつくることです。いきなり多くの人に話したら失敗します。 それでは自分はどのタイプか? それを知るには、自分がやって楽しいことや、先祖にどのようなタイプの人がいたかを調べてみることです。これは、性格でなくDNAに由来する気質ですから。アイデアを出すのが楽しい人は「太陽」タイプ、プランをつくり込むのが楽しい人は「海」タイプ、自分が表現することで周囲が盛り上がるのが楽しい人は「風」タイプです。 さいごに、異なる気質の化学反応を促進させる触媒についてお話します。それは、「共感」です。まずは、社会貢献等の「利他」の共通目的に共感する少数メンバーによるチームで始めること。それが私の考えるイノベーション成功の秘訣です。「共感」は、各個人が発する目に見えない波動同士の干渉を起こしエネルギーを増幅させます。 ただ、これは私流のイノベーション理論であり仮説です。大切なのは、冒頭にお話ししたように、自分流の理論を持ち、様々なチャレンジをしながら少しずつ修正を加え続けることです。 第3種郵便物認可図2 気質の3タイプ

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る