第3種郵便物認可 いうか、ほとんど諦めています。加藤 大村先生との出会いが大きく方向性を変えていったのですね。実は私も同じです。国交省時代は行政だけで研究所の経験は全くなかったのに東日本大震災の時に東北大学に協力いただいたことが学との縁の始まりです。 佐野先生の場合は、“ワクワクと直観”というような、論理ではなく感性が原点で、今の研究成果につながっている気がします。それが研究活動のエネルギーの源ですね。新しいことは分野と分野の間隙にある加藤 研究に取り組むうえで大事にしていることはありますか。佐野 先ほどの話にもつながるかもしれませんが、新たなテーマを常に探したい、探さなければならないという気持ちはあります。今までなかった視点やアプローチを社会に提示できることが研究者の醍醐味だと思いますので、そこはこだわっていきたいですね。 よく言われることではありますが、これまでの経験も踏まえ、新しいことは分野と分野のあいだにあることは間違いないと考えています。自分が専門にしている分野の常識と、専門外の分野の常識は違うことが多いと思いますが、これをつなげたり、混ぜたりすることで新たなテーマが見えてくるのではないか。このつなげたり混ぜたりする常識が2つより3つ、3つより4つと多いほうがいい。でも2つでも十分です。 私が研究しているノロウイルスを吸着するバクテリアも、こうした2つの常識を結びつけたことで生まれた研究テーマの1つです。博士課程の時代に、ウイルスの研究にあたっては免疫についても勉強しておく必要があるだろうと考え、免疫に関する簡単な教科書を読み漁りました。その中で、人の血液型を決める糖鎖を持つ腸内バクテリアが存在するとの記述を見つけました。私はその時に初めて知ったのですが、これはお医者さんにとっては常識だそうです。一方で当時、ノロウイルスに感染しやすい血液型があるという論文が出始めていました。赤血球上などに提示されている血液型を決める糖鎖にウイルスが結合することで、細胞への感染機会が上昇する、という内容でした。私は先程の免疫の教科書を読んで、血液型を決める糖鎖を持つ細菌が存在しているとの知識を得ていましたので、この細菌はノロウイルス吸着細菌ではないかと、頭の中で結びつけたわけです。このことに気づいた時、気づいているのはおそらく世界中で自分だけだろうなと思っていました。お医者さんは、腸内バクテリアの存在は知っていても、ノロウイルスを吸着するバクテリアの存在を意識したことはなかったようで、人とウイルスの2者間の関係性だけを考えていた世界に、腸内細菌を加えた3者の関係性を新たに提示できたというイメージでしょうか。お医者さんやウイルスの専門家にも喜んでもらえましたね。加藤 まさに異分野との融合によるイノベーションを実践されているのですね。イノベーションは全くゼロからの発見はほとんどありません。今あるものを組み合わせて全く新たな価値を創るものです。カクテルやラーメンのスープのように。ただ、佐野先生のように別分野の土俵に入っていけるかどうかがイノベーションのポイントになります。学の世界にもわりと縦割りのところがあり、自ら他分野に出かけていくことは少ないのではないでしょうか。自分の分野だけにいる方が居心地は良いし、たくさん論文も書けるかもしれませんから。しかし、佐野先生は謙虚に他分野の門を叩きに行かれる。佐野 はじめは言葉が通じませんし、相手は邪険にはしないまでも、「はい、そうですね・・・・・・」で終わるケースが多いです。やはり根気強く、時間をかけてやるしかないと思います。恥ずかしい思いもたくさんしますし、それを気にしない性格でもなく、しっかりと傷つくのですが、それよりも新しいことを見つけたい思いが強いですね。加藤 イノベーションについては、昨今、様々なハウツー本がありますが、地域との信頼関係を築いて地道に謙虚に続けること、そして他分野の門をこちらから叩きにいくこと、このような佐野先生のアプローチの方法に、社会に役立つ研究やイノベーションの原点を見た気がしました。 本日はありがとうございました。下水情報研究センターの今後の展開にも引き続き注目していきたいと思います。 第1995号 令和5年6月13日(火)発行(41)
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