第3種郵便物認可 この仮説について、社会学者・ユングが提唱し、DNAによる人の気質(環境により形成される性格ではない)に着目した「タイプ論」から考えてみます。ユングのタイプ論 ~「感覚」「直感」「思考」「フィーリング」の4つのタイプ~ ユングのタイプ論は、気質を私たちにも馴染みのある「外向型」「内向型」の2つに大別します。わかりやすい判別方法として、例えば、ミレーの『落穂拾い』という誰もが知っている絵画がありますが、あなたは、この絵画を見るとどのような心の動きや反応がおこりますか? 描写されているモノ・事象そのものが良く描けているか、また他の作品との客観的な比較などに意識が向くタイプは「外向型」、一方、過去に見た景色を思い出すなど作品から自分の世界に入っていく人は「内向型」の傾向です。「外向型」=「客観的」、「内向型」=「主観的」と言えます。私は『落穂拾い』を見ると幼少時の夕方に見た横浜の山々の光景が思い起こされ、当時の自分に戻る気がしますので明らかに「内向型」で、自分自身の内面に深く入っていくタイプです(そのため会話していても、人の話はしばしば右から左に抜けていきます……)。 「外向型」「内向型」に分けた上で、さらにユングは人の気質を「感覚」「直観」「思考」「感性」の4つに分けます。つまり、2(内向・外向)×4の8タイプがあるわけです。この4タイプの気質の全てを人は持っていますが、最も強い気質でタイプ分けします。順に説明していきますと、まず、「感覚」と「直観」は対象をとらえる時の知覚の仕方に関するタイプ分けです。事象そのものの輪郭を正確に五感で受け止め、その印象を尊重するタイプが「感覚型」、一方、事象に向き合った時に、そのものの輪郭や印象ではなく、別の用途や裏に潜む様々な発展可能性を発想してしまうタイプが「直観型」です。 一方、「思考型」と「フィーリング型」は判断の仕方に関するタイプ分けです。論理や一定の基準に合わせて判断するのが学者的な「思考型」、これに対して、「感じ」すなわちフィーリングで判断するのが「フィーリング型」になります。動物的な判断と言っても良いですし、その場の空気を鋭く感じながら判断する気質です。 以上がユングのタイプ論の場合分けです。例えば、知覚は「感覚型」で、判断は「思考型」の人なら、自然現象そのものを詳細に観察し論理的な研究が出来るタイプとなりますし、「直感型」でかつフィーリングで判断する人は、将来ビジョンを構想し、センスの良いスローガンを掲げるタイプとなります。このように、理論的には知覚と判断のタイプはステージが異なり、知覚タイプ×感覚タイプの組み合わせがありうるのですが、ユングは4気質を水平に扱い、個人の持つ最も強い気質でその人のタイプを代表させ、2×4の8タイプとしています。 やや堅い説明をしてきましたが、専門家でないなら、ありのままの事象の観察が好きなら感覚タイプ、ある事実から変わった発想をしてしまうなら直観型、数学のように論理的に考えるのが好きなら思考型、文字通りフィーリングで生きているならフィーリング型、というくらい理解しておけば十分です。なお、ユングに関する著作がある山口實氏は、企業が新たな経営戦略を練るなら「構想づくりで夢見る直観型」の人材を集める、また、人事担当なら「他人の心理に敏感なフィーリング型」が適任など気質からの人材活用についても言及しています。 ちなみに、私は占いが好きですが、アプリで質問に答えてデータ入力して行うような占いは、このユングのタイプ論の理論を活用して分類し、職業の適性などを判断しているような気がします。そういう意味では理論的根拠があるのかもしれません。化学反応をタイプ論から考える ~太陽と海と風の理論~ ユングによると、これらのタイプは先天的なDNAで決まっています。どのタイプが優れている、劣っているというのは一切なく、組み合わせが大事だと説きます。各タイプが相互に補完し合うことが社会にとって重要であると。ユングのタイプ論は補完し合うということまでですが、この異なる気質が集まることが、イノベーションに必要な化学反応を起こすと私は考えています。 具体的に私の仮説をお話しします。まず、ユングは4タイプですが、私の経験から、仕事を行う上での役割分担及びタイプ間の類似性からイノベーションに必要な気質の分類として3タイプに集約します。具体的には、冷静に観察し論理的に判断するという「客観性」の強い「感覚型」と「思考型」の人を1つのタイプとしています(学者的な人)。そして、ものごとの可能性を追い求める直観型のタイプを「太陽」、冷静に観察し論理的に判断する客観性を重視するタイプの人を目的地に向けて海図を書くイメージから「海」、感性豊かでフィーリングで判断するタイプを「風」と名づけました。なお、ここでは、行動や振舞いに関する「外向型」「内向型」はひとまず置いています。 イノベーションのスタートで必要なのは、まず希少な「太陽」です。アイデアを思いつき、構想を練るのが好きな人で、いわゆるイノベーターと呼ばれる人はこのタイプです。私の経験した中では100人に1人いるかいないかと言う感じでしょうか。組織内では少し変わり者で、見つけるのが最も難しい稀少なタイプです(5月末に発刊した『コンセプト下水道』で掲載した座 第1946号 令和3年6月29日(火)発行(41)
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