第3種郵便物認可 がるようなモニタリングに代わる自治体の役割や具体的な業務、官と民の統一的な目標や共同作業で行うべき業務を探す必要があるのではないでしょうか。 モニタリングに代わる技術継承の方法として、まず思い浮かぶのは人事交流です。委託先に自治体職員を出向させ、現場を知ってもらうというわけです。ただ、これは委託先が純粋な民間企業だとなかなか難しい。一方、官が出資する官民組織ですあれば出向も容易になります。実際、前述した官民組織では官から人を出向させている例も多いようです。そして、これは若い職員を対象に早めに、かつ継続的に行う必要があります。あるシュタットベルケで、委託元の自治体の技術レベル維持のために出向する制度はないか聞いてみました。実施した事例はあるようですが、自治体職員がシュタットベルケの技術レベルについていけずに職場で孤立してしまったことから現在は行っていないとのことでした。 もう1つは、事業のすべてをPPPにするのではなく、部分的に直営を残すというやり方です。この残し方も様々なパターンが考えられます。管路包括などで多いですが、直営と委託でエリアを分割するケースや、継承したい技術、例えば推進工事だけは自ら発注し監督するといった工法で分ける方法も考えられます。計画と基本設計は自治体で行い、それ以降は民間に委託するなど業務フローで切り分けるケースもあるかと思います。いずれにせよ、官側のモチベーションやプライドを保つために、どう直営とPPPを切り分けるかが大事になってきます。若い職員をくさらすような、「上下水道はつまらない」と思わせてしまうようなPPPになってしまうと、たとえPPPは進んでも上下水道事業の持続性は低下することでしょう。多様なPPPを広げるために 現在、PPPに関して言えば、コンセッションの推進が国の大きな政策課題の1つになっています。ただ、もっと普及させるには手続きの簡素化と負担軽減が必須ではないかと思います。応募する民間にとっても手間とコストの両面で大きな負担になっていますし、もっと早く手軽に事業化が可能な仕組みがつくれないものでしょうか。 いわゆるコンセッションが難しいのであれば、コンセッションまでは行かなくとも、通常の包括委託に比べると自由裁量が大きい手法を広めるというのも手だと思います。実際、包括委託と改築を組み合わせる方式も少しずつ出てきています(復興事業として私が関わった大船渡方式など)。また、フランスでは、コンセッション的な性格を持つものの改築を含めない維持管理と修繕だけの方式を独自に「アフェルマージュ」と名付けています(EUでも日本でも「コンセッション」の一類型になります)。日本でも、様々なコンセッションの類似方式に「準コンセッション」と名付けるなどして選択の幅を広げていく。現状のコンセッションにこだわらず、異なる類型をいくつかトライしたうえで評価し修正を加えつつ、日本に合った類型を増やしながら広めていく必要があります。 また、こうした多様な類型の中から、自らの地域に合ったものを選択できるような仕組みとそれをサポートする組織を育てる必要もあります。残念ながら日本にはまだ、最適なPPP手法の選択をサポートできる専門組織はありません(フランスには官側専門に技術と法務・財務を総合的に支援する組織があります)。 さらには、PPPの任意事業として農業利用や低炭素活動を組み合わせるといったアイデアがあってもいいと思います。農業利用とPPPというと異質ですが、農業利用を通じて市民との絆を強くし、PPPも市民対話による信頼感で推進する。適切な使用料確保による経営資源や共助などの災害時のスムーズな対応にも効果が期待できます。シュタットベルケがめざす地域社会のパブリック・バリューを高めることに貢献できるでしょう。 最後にもう1つ、コンセッションのハードルと言えるのが、雇用確保の問題です。フランスの場合は、労働法に基づきPPP導入などで維持管理の業者が入れ替わった場合、それまで働いていた人がそのまま働き続けられるよう保障されていますが、日本でそうした仕組みはありません。新たに参入した業者にとっても、その土地で雇用を新規に確保することは簡単ではありません。あり得ないことだとは思いますが、個人の意思に反して、入札で仕事を失った従前の企業が雇用に邪魔するようなことが横行すると日本のPPPには急ブレーキがかかるでしょう。思いつきですが、例えば、PPPの入札条件に職員の継続的な雇用に関する項目を加えるなど、やり方は考えられるのではないでしょうか。 シュタットベルケもフランスのコンセッションも、様々な議論や紆余曲折を150年近く繰り返しています。日本のPPPはまだ始まったばかりです。市民を支える基礎的インフラの持続に向け、「公的価値」を生み続ける組織運営のあり方を常に考え続け、日本のPPPの歴史をつくりはじめることが求められています。 第1991号 令和5年4月18日(火)発行(43)
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