コンセプト下水道 第21~38回
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(42)第1991号 令和5年4月18日(火)発行 するためにはどうすればよいか、この解を探し続けることの重要性を強調していました。この3つは、1つを強く追求すると、残り2つを諦めなければならないトレードオフの関係にあります。例えば、利益を上げるために手っ取り早いのは、技術の品質を下げる、または、料金を上げることです。品質の担保や、無理のない料金設定においても、他の2つに目をつぶるのが最もラクです。ところが、この3つは上下水道のPPPを成功させるうえでどれも欠かせない要素です。この魔法の三角形をいかに解くか。難題ですが、答えはいくつかあるはずです。 例えば、最近の動きであればDXは糸口かなと思っています。前述したように、シュタットベルケの中には、上下水道や電気、ガス、地域熱といった複数の事業を1つの中央監視制御室で見ているところもありました。人や業務の効率化により、技術の品質は担保しつつ、利益を出し、料金水準も維持する。この一番の近道はやはりICTの活用ではないかと感じていますし、その効果を最大限に活かす意味でもシュタットベルケのように地域のインフラを総合的に管理することは大きいです。一方で、システムは複数分野がつながっても、それを使用する「人」がそれぞれの分野について一定の知識を有する必要があります(いわゆる「多能工」)。そのための地道な努力も求められるでしょう。 日本ではコンセッション等のPPPが今後さらに進められると思いますが、ドイツでは一時、民間化がかなり進んだとのことでした。その反動の受け皿(再公営化の受け皿)として、また、社会政策が低炭素社会の実現など地域社会のあらゆる関係者による自主的かつ総合的な努力が必要な時代となり、改めてシュタットベルケの役割やパブリック・バリュー(公的価値)という概念が注目されているようです。国内でも様々な官民組織が誕生 ここで翻って日本のPPPに少し目を向けてみたいと思います。官か民かと言った二項対立の議論もある中で、答えの1つとして、互いの強みで弱点を補い合う「官民組織」という仕組みが少しずつ広がってきました。官民それぞれが出資するケースと、官が100%出資するケースがあり、前者だと例えば東京都下水道サービス(TGS)、北九州ウォーターサービス、水みらい広島、後者だとクリアウォーターOSAKA(CWO)、横浜ウォーターなどが代表的です。加えて今、秋田県でも、官(県と県内全ての市町村)が51%、民間が49%出資して設立する「官民出資会社」という新たな枠組みの構築が進められているところです。 とは言うものの、官民組織がうまく機能するのは簡単なことではないと思います。シュタットベルケも150年近くの紆余曲折を経ながら現在の形にたどり着いたようです。私は、官民組織の成功の秘訣は、何と言っても官と民が互いに異質である相手の考え方をリスペクトし合うことだと思っています。「官と民が対等な立場で」と言っても、簡単ではありません。事業が始まるまでは民が提案・営業して官が採用・決定するといった関係性がありますし、他の業務での受発注の関係から民がへりくだるのも仕方ない感じがします。だからこそ、民を生かそうとする官側のリーダーシップが求められるのではないでしょうか。官が不得意な分野にもかかわらず民に対して細かく干渉するようでは、うまくいくはずがありません。ドイツのシュタットベルケでは、自治体が100%出資していても自由に業務を行える環境が整っているとのことでした。その考え方と仕組みは学ぶべき点がたくさんありそうです。 日本でも元気な官民組織は、出資している自治体の境界を超え、他の自治体の業務にも積極的に参加しているものが増えてきました。水みらい広島では広島県以外の業務が3割を超えているとのこと。その広がりには出資している官の後押しもあるようです。官民組織が日本の上下水道事業にどのような役割を果たしていくか注目したいと思います。モニタリングだけでは技術継承は難しく、モチベーションが下がる可能性も シュタットベルケの社員のモチベーションの高さに触れましたが、私が最近心配しているのは、PPPを導入している自治体の職員のモチベーションについてです。現在、コンセッション等における自治体の役割はモニタリング(履行監視)が中心、または、それのみになっています。もちろん、その必要性は認めるものの、個人的には職員のモチベーションが上がるような面白い仕事とは思えません。よく自治体の技術継承のためにモニタリングを自治体が担うべき、という議論を耳にしますが、果たして本当にそんなに効果があるのだろうかと疑問も持っています。実際、某都市でモニタリングを行っている自治体の職員をヒアリングしたところ、「監視するだけでなく、自分でもっと別の業務がやりたい」「このままで実力がつきますかね?」「とてもつまらない仕事でモチベーションが上がらない」などの声が聞かれました。PPPを今後も推進していくならば、職員のモチベーションアップや技術継承につな 第3種郵便物認可

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