コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 いかと思われますが、これは「公益に貢献する」「利益は地域に還元される(一般的に企業は株主価値の最大化をめざすのに対して)」ということが後ろ盾になっていると言えます。なお、官出資だからといって競争に全くさらされていないわけではありません。ドイツでも自由化の進むエネルギー分野では、大手のエネルギー会社にも入札で勝ち切る経営能力を有しています。力の源泉は地域の信頼でしょうか。サービスの料金アップについては、日本だと議会などで大議論になりますが、シュタットベルケの場合は経営の監視組織に首長や議員が多く入っているので理解を得やすく、議会で問題なることはあまりないようですし、信頼感によるものなのか一般市民からの反対もあまりないようです。「パブリック・バリュー」とは 今回の調査で印象に残ったのは、各地のシュタットベルケの社員が盛んに口にしていた「パブリック・バリュー(公的価値)」という言葉です。抽象的であり、ドイツでも正式に定義されたものでなく、その評価方法も研究途上にありますが、昨今、その重要性について議論が高まっているとのことでした。あえて説明するならば、会社の株主だけでなく、すべての関係者、すなわち市民一人一人の満足度はもちろんのこと、地域社会への貢献度や存在意義、公平公正な業務を行うことを通じた「信頼感」といった意味になるかと思います。その価値、Valueを判断する主役は市民など組織外の人たちです。いかにパブリック・バリューを生み出すことができるか。それがシュタットベルケの目標であり、一般的な民間企業と差別化する際のポイントにもなります。 このパブリック・バリューを生み出すことを組織の共通の目標にしているからでしょうか、面会したシュタットベルケで働いている多くの社員が「地域のインフラを支えている」という強い自負、「プライド」を持っていたことがとても印象的でした。特定のインフラだけでなく、地域全体のインフラを支える組織の一員であることが社員のモチベーションアップにつながっている気もしました。自らが「地域の市民生活を支えている」という意識が強いのでしょう。まさに以前に本連載でも紹介したパーパスの力です(第30回「パーパス経営とDX ~今こそ「人」のチカラ~」)。 いずれにしても、ドイツでの調査は、地域インフラを支える「プライド」に圧倒された日々でした。公益に尽くす人のプライド、それが民間企業に必要となる「経済効率性」向上の源泉にもつながっています。もちろん、公益への貢献をプライドとすることは、自治体や自治体出資の組織の一員でなければならないわけではなく、民間企業を含め、地域インフラに関わる者であれば誰でも可能です。日本の上下水道関係者のモチベーションアップや、学生のリクルーティングに大いに参考になるのではないでしょうか。ちなみに、どのシュタットベルケでも、地域の若い学生に様々な教育支援を行うなど、リクルーティングに相当の熱意と長期的で多様な戦略を持っており、これも驚きました。「魔法の三角形」を解く ドイツの調査では「魔法の三角形」の話も興味深かったです。あるシュタットベルケでは、①持続のために「利益」を確保する、②技術の品質を担保する、③市民が支払える無理のない料金設定、の3つの相反する関係を「魔法の三角形」と呼び、これらをいずれも実現 第1991号 令和5年4月18日(火)発行(41)訪問したハイデルベルクのシュタットベルケハイデルベルクの街並み

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