(40)第1991号 令和5年4月18日(火)発行 ています。ただ、下水道事業はサービス事業とは認識されておらず、自治体が実施する場合は消費税がかからないので、シュタットベルケに委託せず自治体が行うことも多いとのことでした(シュタットベルケが行うと他のサービス事業と同様に消費税がかかるため)。日本と同様、ドイツでも下水道は地域の基礎インフラの中で特に公共的な役割が高いものと位置づけられている印象を受けました。 現地ヒアリングによると、地域の基礎的なインフラを総合的に管理することにより、例えば技術的な親和性が高いと認識されていた水道とガスを同一組織で行うことで業務の効率性の向上、様々な事業に必要な資機材を一括して調達することによるコストダウン、上下水道等に必要な電気を社内の他部局との調整により低コストで調達できるなどのシナジー効果を実現しているとのことでした。最近、日本でも関心が高いDX(デジタルトランスフォーメーション)についても、あるシュタットベルケの中央監視室では、水道、ガス、熱供給等の監視を1つのディスプレイで行っていました(昼間は2名、夜は1名体制で)。 シュタットベルケは、市民生活に必要となる多様な基礎的サービスを持続的に行うため、会計上の特別な運用を行うことが認められています。日本でも問題になっていますが、独立採算で行っているインフラには赤字の事業もあります。ドイツでは、都市内交通、プール、公衆浴場はほぼ赤字になるとのことです。しかし、地域の基礎インフラは赤字でも持続させることで市民生活を守る責任を自治体が果たすという精神から、シュタットベルケ(50.1%以上自治体が出資するものに限り)には黒字事業の利益を赤字の事業に補填できる仕組みが許されています。市民生活のために低料金とすることで、どの都市でもほぼ赤字となる都市交通などの事業を、エネルギーなどの黒字事業で補完する構造になっています。個人的にプールや公衆浴場はインフラとして認識しにくかったのですが、市民の健康を守るとともに、市民のコミュニティ形成のための必要不可欠なインフラと聞いて納得しました(スーパー銭湯への見方が変わりました)。 ドイツのシュタットベルケは、150年近くの長い歴史がありますが、官のガバナンスにより市民の信頼も得ながら、民間の自由な発想と高い経営効率により市民生活を支えるインフラを提供し続ける成熟した官民連携の形態であると感じました。地域の基礎インフラはある意味で独占的にシュタットベルケが行うことになりますし、赤字部門への補填には批判もあるのではな第3種郵便物認可~シュタットベルケに学ぶ「プライド」と「公的価値」~コンセプト下水道【第35回】ドイツの調査で見えてきた、成熟した官民連携の形態 先日、シュタットベルケの調査を目的にドイツを一週間ほど訪れました。フランクフルト、ハイデルベルク、ウルムなどを訪問し、各都市のシュタットベルケの方々とディスカッションしましたので、今回は訪問での「学び」をお話しするととともに、その比較として改めて日本の官民連携についても考えてみたいと思います。 この連載でも何度か言及していますが、シュタットベルケとは、日本で言えば地方自治体ごとに設立する公社に近い組織の総称です(民法上の会社組織)。ドイツではドイツ基本法に基づく強い地方自治の精神により、市民の生存を守ることを目的として自治体に基礎的な公共サービスを提供する責任があります。そして、ドイツの国内の大部分の自治体はその効率的な遂行のために、自治体がほぼ100%出資する有限会社等を設立し、ここに外部委託しています。この組織がシュタットベルケです。現在はドイツ国内に約900存在しますが、シュタットベルケが出資している公共サービスの関連会社等を含めると1万社を超えています。官と民の関係ですが、外部委託しても市民の基礎的な生活保障する責任は自治体に残るため、出資者である自治体の首長や議員がシュタットベルケの監査役として参画し、経営や人事に対して関与することでガバナンスします。ただ、執行権はもたないこと、また、社長は経営能力と専門知識のある者を外部から採用するため、かなり柔軟で効率的な会社経営ができるような仕組みになっています。 最大の特徴は、上下水道事業だけでなく、エネルギーや電気、熱、ガス、交通、プール、公衆浴場などの地域の基礎的なインフラを総合的に管理している点です。また、インフラごとに別の会社が管理している場合でも、出資関係を通じて互いに強固なつながりをつくっイラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)官民組織のススメ加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授
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