(34)第1988号 令和5年3月7日(火)発行 図 普及プロセスのイメージ少数ですが存在します。そして、そこから新しいもの好きの好奇心旺盛な農家、いわゆる「初期採用者」に伝えることで、そこを起点に多くの農家に広がっていくというプロセス理論です。つまり、多くの人を同時に対象とするのではなく、人物のタイプをよく吟味して話をする順番を考えることに多くの時間を費やすと、結果的に効率的に普及が進むという方法論です。やみくもに多くの人に話をしても大部分を占める反対者や懐疑心の強い人の声に潰されるだけです。みなさんの職場でも実体験があるのではないでしょうか。 では、その地域にスーパーマンや伝道師がいないときはどうするか。その際はエージェント(代理人)がイノベーターの役割を果たすべきです。地域で案件形成支援を行うコンサルタントなどのイメージです。エージェントは外からその地域やフィールドに入っていく必要がありますし、相手は農家など下水道関係者だけではありません。ドキドキするような新たなチャレンジになると思います。ただ、この一方で、外部から来た「よそ者」ゆえに発揮できる力もあるのです。その地域に住んでいる人たちはその地域の「宝」や「価値」になかなか気づかないものです。よそ者だからこそ気づく宝や価値もあるでしょうし、外部の知識や経験を取り入れることもよそ者の役割です。よそ者だからこそ、うまくいくという理論もあるのです。 普及が始まったら、その持続のための「仕組み」をいち早く構築する必要があります。それは、ステークホルダー(関係者)である、下水道管理者、農家、レストランや八百屋、そして消費者のそれぞれにとってのメリット、何と言っても経済的なメリットを生み出す「仕組み」をつくることです。下水道管理者は汚泥処分費が安くなり、農家は化学肥料よりも肥料代が大幅に下がった、八百屋さんも地元で化学肥料を使わない野菜が手に入る――のようにWin-Win-Winでみんながハッピーになる仕組みをガッチリとつくってしまえば、ムードが停滞する時期があっても乗り越えられます。 これから全国的に農業利用の案件形成支援が活発化すると思いますが、支援を行う国や企業の方々にはフィールドを歩きながら、ぜひ他の政策にも応用できる普遍的な理論・法則にも気づいてほしいです。「下流から上流へ」、そして「下水に味付け」という発想も 過去に「安全と安心のすき間」というコンセプトを書きましたが(第9回「安全と安心の「すき間」~その埋め方のコンセプト~」)、普及にあたっては下水汚泥肥料の安全性に関するデータの透明性を高めることが安心感につながるポイントです。私の研究室では学生が下水汚泥肥料を製造する肥料会社をまわってヒアリングを行っています。ある会社では、原料の仕入れ先や成分などの安全面のデータと、肥料の品質評価にあたって重要な「腐熟度」と呼ばれる指標などもすべて公開していますが、これが農家からの信頼や「安心して使える」ことにつながっていることを確認しました。こうした肥料のデータ公開の取り組み(トレーサビリティ)はフランスなどでは進んでいるようですが、日本ではまだ十分とは言えず、前述した論点にある「データの蓄積」からの広がりに期待したいと思います。 さて、そもそも日本では、「下水」の分析調査はやるものの、「下水汚泥」の分析調査は幅広くはやってきませんでした。環境に出ていく下水は「きれいにしよう」「水質を良くしよう」という考え方がベースにありますが、埋め立て処分してきた下水汚泥にそうした考え方は必要なかったからかもしれません。エネルギー利用の場合も消化ガス発生量のための分析に関心が高く、汚泥の有する有機などの質や安全性などの中身に深くこだわることは稀です。 しかし農業利用を進めるとなると、今のままで良いのかと思います。高品質の農作物を栽培するためには、肥料の原料となる下水汚泥の質を変える必要があります。そのために上流の水処理施設の設計や運転方法にさかのぼって考えることも価値がありそうです。分かりやすい例で言えば、高度処理のためのリン除去も目的に水質保全だけでなく、農業利用のためのリン回収が付加されるかもしれません。すでに福岡市では博多湾の水質保全と肥料利用の両方を目的としてMAPによるリン回収を推進しており、昨年からは新たにJA全農ふくれん(JAの福岡県本部)や産肥会社との協働で福 第3種郵便物認可
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