コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 本部で決定され、論点整理に盛り込まれました。2030年度までに下水汚泥資源の使用量を倍増するという目標です。現在の使用割合は約14%と言われていますので、これを3割近くまで引き上げようというわけです。努力すれ何とか手に届きそうな目標で適切な数値が設定されたと思っています。 このように今回は、まずは目標、そして実現のための両省による全国的な体制の構築、エビデンスとなるデータの蓄積と見える化、財政支援、差別化・ブランド化のための公定規格など、様々な観点から重層的な検討がなされたと思います。事務局はかなりハードだったと思いますが、これらは農業に限らず下水道資源の有効利用の政策を考えるうえで大変に意義深いと思います。農業利用の「むずかしさ」と「楽しさ」 他の下水道政策と比較して下水道の農業利用で最も肝心なものは何と言っても「出口戦略」です。その理由は農業利用が人と直接結びついているからです。例えば下水や河川そのものには人格はないので、出口、つまり処理水の放流は主に定量的な数値で科学的に判断されるので複雑な戦略は不要です。電力などのエネルギー利用もほぼ同様です。しかし農業利用は、その成果物の大きさや色艶が目に見え、人の口に入り、味や香りを楽しむものなので、他の政策に比べ出口の工夫が求められます。心得ておくべきは、科学的定量化だけでなく、本シリーズでも頻繁に紹介している感性や五感を活用するアプローチが必要になるということです(第29回「キリスト教に学ぶイノベーション~カトリックが普及した5つの理由~」など)。だから楽しいのです。 農業利用のむずかしい点と楽しい点は他にもいくつかあります。1つはステークホルダー(関係者)が多いことです。下水道管理者に始まり、農家、レストランや八百屋、そして消費者と、全員が理解して協力しないと循環しない、成立しない取り組みです。そのため「次の人にバトンをつなぐ」という意識が重要になってきます。下水道管理者は次にバトンを渡す農家または肥料製造会社が使いやすい、使いたくなる性状と成分にして渡す。そして農家は、消費者が買いたくなる美味しい農作物をつくるための施肥の設計を研究して普及させることなどが求められます。もちろん、この循環の輪の構築はチャレンジングですが、多様な人々が関わる取り組みだけに、輪がつながったときの楽しさや魅力もあります。 農家の経営リスクに直結する事業であるという点も忘れてはいけません。化学肥料から下水汚泥肥料へ、従来のやり方を変更するわけですから、経営者としては失敗した時のリスクを考えるのは当然です。さらには、残念ながら「下水」または「下水汚泥肥料」に対するイメージが必ずしも良くないことや臭気の課題もあります。 このような様々な課題を克服して普及させていくには、マーケティングの方法論の知識などが有効になってくると考えています。普及プロセスは他の政策に応用できる 私はBISTRO下水道を長きにわたって注目し続けています。もちろん、この政策を正面から取り組むことに意義があると考えていますが、もう1つの理由は農業利用で得た普及方法は他の政策にも適用できると考えているからです。それは具体的には「水平展開の方法論」です。現状、下水道分野に限らず、水平展開の方法論は確立されているとは言いがたいと思います。 政策の1つのパターンとしてモデル事業やモデル都市の選定、そして普及展開という公式がありますが、選定された都市から自動的に普及するものではありません。政策の三位一体と言うべき「財政的なボーナスとペナルティ」「時間的な期限も含めた規制的手法」「必要となる技術開発」の組み合わせが王道であり、長年実践してきましたが、それだけでは限界があることを何度も痛感してきました。 普及のハードルが高い農業利用で水平展開の方法論が見つかれば、どんな政策にも応用できるはずですし、普遍的なモデルになると思います。同じ政策や新技術を提案したときに、先進的に導入し、成果をあげる地域とそうではない地域があります。その違いの理由として「結局は人だよね」という感想だけで分析を終わらせてはいけません。イノベーション普及理論と持続の仕組み 私の研究室では学生が佐賀市や岩見沢市などの成功事例をもとにマーケティング学のイノベーション普及理論の視点から普及プロセスの分析を進めています。その一端をご紹介します。成果の1つが図ですが、まず地域の役所の職員や農家の中にチャレンジ精神旺盛で少し変わり者の「スーパーマン」や他人に伝えることが大好きな「伝道師」のようなタイプの人物がごく 第1988号 令和5年3月7日(火)発行(33)

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