コンセプト下水道 第21~38回
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(32)第1988号 令和5年3月7日(火)発行 に出足が早い印象です。 2つ目は重金属の分析結果や下水汚泥肥料の効果などの「科学的なデータの蓄積」です。データを集めて体系化し科学的に“見える化”することは継続的な利用促進の基盤として不可欠です。「論点整理」では全国的なデータベースを整備する必要性などにも触れており、両省が連携して取り組みを進めていくことになりました。 3つ目は調査・検討から施設整備までの一貫した「財政支援」の明確化です。前に進めるためには国の財政支援が欠かせませんが、これを明確に打ち出したのも大きな成果だと思っています。令和5年度予算からは「コンセッション」と「肥料利用」が重点配分になると聞いていますが、この組み合わせにも時代の急速な変化を感じます。 さいごの4つ目は公定規格やブランド化が盛り込まれた点です。実は私がこの検討会で「これだけは入れ込んでおきたい」と考えていたのが、「目標の明確化」と、この「公定規格」の2つでした。いずれも、下水汚泥肥料を促進する機運が一過性で終わらないために絶対に必要だと思ったからです。公定規格については、すでに農水省で下水汚泥肥料を化学肥料の原料として混合できるよう、リンなどの有効成分の最小値を設定する新たな規格の検討が始まっているようです。この動きともリンクしていますが、論点整理で明記されている有機JASに準じた規格の制定に特に期待しています。私は「有機」と明確に言えないジレンマを何度もフィールドで聞いてきました。歴史があり極めて厳しい現在の有機JASと同じ規格ではなく、これに準じた柔軟なものが良いと思います。データの蓄積の時間も必要になりますが、法定規格として「有機」と言えるようになることは、下水汚泥の農業利用関係者の長年の悲願です。リンも、もちろん大切ですが、下水汚泥の価値は何と言っても「有機」にあります。そして豊かな「微生物」のチカラによる土づくり。そのポテンシャルはリンの含有量のように明確に定量化ができないので政府目標にはなりにくいのですが、規格化と名称を含めたブランド化というアプローチでその魅力の具現化に取り組んでほしいと思います。名称はやっぱり「じゅんかん育ち肥料」ですかね。 そして今回、私が最もこだわったのは「目標の明確化」です。政策が一過性にならないためには最も重要なことでした。これについては、ほぼ同時期に総理を本部長とする食料安定供給・農林水食料産業基盤強化第3種郵便物認可コンセプト下水道【第34回】~バトンをつなぐ方法論~一過性で終わらないために 政府の方針などを受け下水汚泥の肥料利用を促進する機運が高まっています。下水道の農業利用については、この連載でも一度、「BISTRO下水道 ~グローバルとローカル~」として取り上げたことがあります。その時は楽しいけれどニッチなところに光を当てているつもりでしたが、思いがけず国の重要政策となり様々な方々から相談を受けたり、テレビやラジオに出演したりする機会もいただきました。そんな変化の中でもコンセプトは変わることはありません。その後の情勢も踏まえ改めて思うところを書いてみたいと思います。 まずは硬い話になりますが政策動向です。化学肥料の価格高騰などを背景に、昨年9月、総理が下水汚泥肥料の利用の大幅な拡大を農水大臣と国交大臣に指示しました。これがスタートです。これを受け国土交通省と農林水産省が連携して設置したのが「下水汚泥の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」です。この検討会に私も副座長として参加しました。10~12月に3回の会合が開かれ、私もプレゼンの機会には具体的な政策を訴えました。それらの成果が「関係者の役割と取り組みの方向性」と「論点整理」として今年1月にとりまとめられました。 このとりまとめにはいろんな意義があると思っていますが、大きくは4つのポイントがあると思っています。まず1つ目は下水道資源の供給サイドである国交省と利用者サイドである農水省が連携して推進していこうという枠組みの構築です。水道の国交省移管も話題になっていますが、国交省と農水省が協働して資源循環の輪を構築していくのも歴史的なことと思います。それも霞が関の中での連携だけでなく、JA等の農業関係者との全国的な連携体制を明確に位置づけたことは画期的です。すでに農業関係者は各県で情報交換の場を設置するなど全国展開に取り組んでおり、想定以上イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)“むずかしい”から“楽しい”農業利用へ加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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