コンセプト下水道 第21~38回
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(40)第1946号 令和3年6月29日(火)発行 第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)図1 Rogersのイノベーション発展過程及」「帰結(社会の変化など)」と発展していきます。つまりイノベーションは、「発明」にとどまらず、社会へ普及していく必要があるわけです。 次に、私なりのイノベーションのシンプルな整理について説明します。大別すると、イノベーションには「効率性アップ」か「新たなValue」のどちらに分けられます。同様の整理を、元ネスレ日本代表の高岡浩三氏が扇風機を例として、わかりやすく説明していました。引用させていただくと、扇風機の首をまわして広範囲に風が届くようにした工夫は「効率性アップ」、一方、「快適で安全な室内環境」を実現するエアコンが生まれたのは「新たなValue」ということです。どちらが優れているということはありませんが、この2つには明確な違いがあります。私は「新たなValue」の方が社会的なインパクトは大きいと考えますが、「効率性アップ」の方が普及までのスピードは速くビジネスになりやすいです。例えばスマホのアプリを使って気軽に飲食店の出前が注文できるウーバーイーツなんかは「効率性アップ」のカテゴリーですね。 さて、前述したように、イノベーションが起こるメカニズムには様々な説があるものの、いまだ理論的な解明はされていません。そのため大切なことは「自分流のイノベーション理論を構築し、修正しつづけること」と学生には話します。決められたやり方がないので楽しいとも言えますし、自由はかえって不安かも知れません。ただ、様々な有識者、特に名著といわれる文献で共通して繰り返し登場するコンセプトは、「利他」や「共感」、「異質との化学反応」など、“目に見えない世界”のチカラであり、また、個人のハートや、人と人の関係性を表現する言葉です。イノベーションには人と人が組むことが大切ですし、何か人間のハートの部分と深い関係性がありそうです。そして、何よりも頻繁に指摘される「異質との化学反応」とは何なのでしょうか? 別分野の人との知識の交換・集約という意味もありますが、単なる知識の「ホチキス止め」にならずに新たな価値が生まれて普及していくためには、その初期段階のメンバー構成が大切で、メンバーの「気質」、特に「異なる気質」が化学反応しているように思えてなりません。コンセプト下水道【第22回】~気質の化学反応~改めて「イノベーション」とは? 経済の飽和感、高齢化、人口減少、環境問題などを背景に、単なるモノづくりの時代は終焉を迎え、新たな価値の創出、すなわちイノベーションが求められています。イノベーションについては、この連載でも一度取り上げましたが、今年度から新たに「都市環境・産業イノベーション論~イノベーションを創り出す人と組織~」というゼミを数名の学生とスタートしたこともあり、改めて古典的な文献や最近の経営者の考えなどを調査し、イノベーションを起こす行動規範について考えています。詳しくは別の機会にお話しできるかと思いますので、今回は、学生にも話している「心理学者ユングのタイプ論」の視点からイノベーションについて考えてみたいと思います。 まず、イノベーションとは何か? これには、明確な定義があるわけではありません。イノベーションの祖であるシュンペーターによれば、「新プロダクト」「新生産システム」「新マーケティング」「新サプライチェーン」「新組織」とあります。ただ、イノベーションが、「なぜ起こるか?」については、様々な仮説は提唱されているものの解明されていません(マット・リドレー『人類とイノベーション』等)。そこが刺激的で、魅力的なのです。 イノベーションに関する最近の文献等から基本的なことを少しだけお話しすると、まずイノベーションは決して技術に限ったものではないということです。例えば東大の構内にもあるスターバックスコーヒーで考えてみると、スタバの魅力はただコーヒーの味が良いだけではありません。場の“癒し感”など、技術で語れない新たな価値を創造していることは皆さんも感じられると思います。 「発明」と「イノベーションの」の違いも、よく学生と議論になります。社会学者のエべレット・ロジャーズが提唱した「イノベーション発展過程」という考え方があります。まず「ニーズ・課題の発見」があり、次に「研究」「開発」が行われる。私は、ここまでの過程が「発明」であると考えます。その後、「商業化」「普イノベーションとユングのタイプ論加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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