第3種郵便物認可 まで有効活用することは果たして本当に効率的だろうか? 先生どう思う?」と疑問を投げかけられました。この一言がきっかけですね。バイオガス中の二酸化炭素とメタンを分離・精製する研究を始めたのは。 確かにバイオガスはメタン成分が約60%占めるものの、二酸化炭素も約40%含まれます。燃料として貯蔵するには二酸化炭素を含んだまま貯蔵することは効率的とは言えません。また、メタンと二酸化炭素がほぼ同量含まれるバイオガスはうまく分離すれば、両方を高純度化できますが、気体の分離は技術的にも経済的にも課題がありました。 バイオガス分離・精製については横浜市の卵形消化槽で実証実験も行いました。20年前の話です。メタンは発電、二酸化炭素はドライアイス製造での利用を想定していましたが、当時は固定価格買取制度(FIT)もありませんでしたし、コスト的には厳しい状況でした。二酸化炭素の有効利用についても、まだ一般的とは言えませんでした。今や2050年カーボンニュートラルに向けて鍵を握る技術として注目を集めています。 ちなみにFIT発電で、自らつくったエネルギーを自己消費せず、外部に送電して売ってしまうのはどうなんだろうと個人的には思っています。もちろん売電したほうが得なので、経済的には正しい行為なのですが。ドイツでは再生可能エネルギーを自己消費した場合も全量固定価格で売電したときと収入に差が出ないような仕組みになっているようです。やはり本来は自己消費したうえでその余剰分は送電して売電するような仕組みであるべき気がします。エネルギー自立が課題である下水処理場では余剰電力は生じず、再生可能エネルギーの自己消費が進めば、送電線の容量不足の問題も解決しますし。また、最近はエネルギーコストが上昇しており、全量FITで売電しても、通常電力コストの上昇により想定の収入が得られないケースも発生しているようです。新潟県で植物栽培の実証試験加藤 二酸化炭素の有効利用と言えば、姫野先生も関わられている新潟県・西川浄化センターでの植物栽培の実証試験が印象的です。二酸化炭素だけでなく、消化ガスや下水熱など下水道のあらゆる資源・エネルギーを使って、わさびやいちごなどを育てるユニークな試みです。私も香りのよい大きなわさびを頂いたことがあります。姫野 国土交通省の下水道技術研究開発(GAIAプロジェクト)としても支援いただきました。下水の温熱を利用した「温室」と、冷熱を利用した「冷室」の2棟のビニールハウスを設置しているのですが、雪国に住む人間からすると温熱の利用は周知の事実なので、個人的には下水の冷たさに着目したのが面白いアイデアだったと思っています。冷室で何が栽培できるか専門家に相談したところ、まず希少水草である梅花藻を薦められました。加藤 わさびではなかったんですね。姫野 そうなんです。梅花藻を年間通じて栽培できることは本当にすごいことだと熱心に説かれました。一方で、梅花藻の栽培だけで下水道技術につなげるのは難しく、もう一工夫ほしいと考え、「他に何かありませんか?」と聞いたところ、「わさびもやれると思いますよ」と。その何気ない一言がきっかけですね。加藤 そもそも、このプロジェクトは、昨年亡くなられた東亜グラウト工業の大岡伸吉さんが新潟県立植物園を視察されたのが始まりだと聞いています。見ることで何かが閃いたのですね。姫野 そうなんです。視察が終わった後に、同社が参加する某協会の会合が新潟で開かれることになっていたのですが、時間になっても大岡さんが姿を見せない。関係者は慌てたようですが、なんと大岡さんはその会合をすっぽかして東京に戻る新幹線の中で特許を取得するためのメモを書いていたそうです。そして新幹線を降りたその足で郵便局に行って投函した。特許の手続きの際に、そのアイデアをいつ考えたか日にちの証明が必要らしく、そのために郵便局の消印を押してもらったのではないかと、ずっと後になって関係者から 第1985号 令和5年1月24日(火)発行(35)姫野先生
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