第3種郵便物認可 学ぶことが大切です。水道と下水道は、財政制度や事業の性格、文化など違いはいろいろと抽出できますが、産業構造もその1つではないかと思っています。どちらかというと下水道はプラントメーカーやゼネコンなどの大手企業が中心的な役割を担っている印象があります。一方、水道は、もちろん大手企業の役割も大きいのですが、特にパイプに関しては地域の現場に根ざした中小規模の業者が活躍しているイメージがあります(あくまで下水道に従事してきた私の勝手な印象です)。こうした水道の産業構造を下水道が持っていない力として活用できるかもしれません。また、下水道業界と水道業界には様々な関連団体があります。このような団体活動の効果を比較することで、それぞれの業界団体の新たな業務が見つかる可能性もあります。例えば、地方共同法人日本下水道事業団のような自治体の代行機関は水道にはありません。 下水道は便益が使用者だけでなく下流まで広域的に及ぶため、水道と比較して国費等の公費で負担する部分が大きい特徴があります(現地調査したフランスも同じでした。そのため、国の方向性に基づく全国的な基準やマニュアルに沿って事業が推進される傾向があります。国費を受けるということは会計検査もあります。一方、水道は料金収入による独立採算が原則という背景からか、施設整備や技術選択の自由度が高いとの声を聞くことがあります。一例ですが、水道と下水道の各々の部署を有する全国的な水コンサルタントの水道関係者と会話していて驚いたことがあります。その方から「下水道はとても硬直的ですべて国のマニュアルどおり。自由な技術提案ができない。何が楽しいのだろうかと疑問に思っていた」とズバリ言われたのです。私からすると水道こそ硬直的な技術基準で全国統一的に淡々とやっているように見えていたので、かなり驚きました。 詳しく比較分析したわけではありませんが、もしも下水道が水道に比べて国費が使えるけど、逆にそのことにより新しいことを自由に提案できない、すなわち“お金だけに支配される”ような文化や構造になっているならば深刻な問題です。人は自由に提案できることでやりがいを感じ、モチベーションが上がりますから。事業の目的や性格の「違い」から財政構造は変えるべきではありませんが、これからは人材確保が最重要課題です。事業の持続のためには、“自由でやりがいのある業界”にすることが大切です。このような面についても水道と下水道を比較することで改善に結びつけられるのではないかと思います。リクルーティングにとってはプラス 学生のリクルーティングについても考えてみますと、これはプラスに働く可能性が高いと思います。これまでは下水道、水道の人材を別々の省庁で採用していましたが、これが都市の水インフラである上下水の両方を扱う省庁として一本化されることで、下水道と水道のどちらの道に進もうか迷う学生にとってはシンプルで分かりやすいし教員としても説明しやすいです。上下水道に限らず、「水をやりたいなら国交省」と話せます。学生を送り出す大学の立場からすると喜ばしいことだと言えます。 また、下水道と水道が同一省庁になることで、上下水道一体型のPPP案件が増えてくるかもしれません。日本では包括委託でさえ、石川県かほく市など数ヵ所と限定的で、その効果の検証や分析がしっかりとなされているとは言えません。「日本では」と書きましたが、ちなみにPPPが盛んなフランスでも上下水道パッケージの案件はほとんどないようです。そういう意味では、宮城県の上工下水一体型のコンセッションは、世界的に見ても上下水道統合の1つの試金石、モデルケースになりうるのではないかと期待しているところです。 さいごに、繰り返しになりますが、水道と下水道は異分野として徹底して比較して差異を明確にする。そして、次に融合を考えてみる。官民連携と同じアプローチです。日本ではシナジー効果が出てくることを期待しています。 第1982号 令和4年11月29日(火)発行(39)東日本大震災での仙台市、国交省、日本下水道協会、新潟市、大阪市による戦略会議(今後はこうした場に水道関係者が加わることも?)
元のページ ../index.html#45