(38)第1982号 令和4年11月29日(火)発行 のためには、同質性に注目するよりも、イノベーションの基本である「異分野融合」と認識するほうが効果的ではないかと思っています。まずは、徹底的に比較して違いを認識すること。言うまでもないですが、何かを深く学習・研究することは、他と比較して違いを認識することです。水道と下水道の「違い」と「同質性」を認識する。これにより下水道関係者なら下水道の意外な面にも気付く。それが基本的な方向と思います。 ドイツに上下水道、廃棄物、ガス、電気、通信など複数のインフラ事業を一体的に扱う「シュタットベルケ」という公営企業の仕組みがあります。このシュタットベルケには、ひとりで複数の異なる業務を見る「多能工」を育てるという考え方があります。例えばひとりの担当者が午前中は水道の検針、午後は下水処理場の点検を行うといったイメージです。スペシャリストというよりはマルチプレーヤーに近いでしょうか。 水道と下水道は水質工学や管路に関する知識では同質性があるはずです。下水道、水道のいずれも地方の経営状況が苦しくなる中、ひとりの人間が両方の知識を持つことで、経営の効率性アップにつながります。これは官だけでなく、民についても言えることです。システムとしては混じっていけない上水道と下水道ですが、上下水道一元化を機に各人が努力し両方の知識を学ぶことで、「もの」や「お金」はともかく、少なくとも「人」の部分ではシナジー効果が現れるはずです。私がアドバイザーをしている高知県須崎市のコンセッションでは下水道と廃棄物の多能工を育成して効率性アップを図ることを目標の1つにしています。 私は大分市上下水道局でも長年にわたりアドバイザーを務めていますが、同市では水道と下水道を組織統合してから、下水道を学ぶために水道部局にいた職員が下水道業務担当に異動しています。また、組織構成も局内を「水道部」と「下水道部」に大別せずに、両事業の経営を合わせて所管する「経営企画課」のように下水道と水道の両方を担当するセクションを設置する構造にしています。大分市によれば、これが知識やそれぞれの組織文化の融合に効果的だったとのことです。水道を長年やってきたある幹部は自分のことを「下水道を勉強中の小学生」と楽しそうに話しています。政策面の課題で重なる部分も 国交省の中での下水道と水道の組織配置は未定ではありますが、上水道と下水道の政策の一元化が進んだ場合の効果についても考えてみたいと思います。例えば、老朽化対策、PPP、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、広域化、経営改善など、上下水道事業が共通に抱える課題があります。こうした課題に対し、それぞれが積み重ねてきた知識を活用し合う相乗効果は十分に考えられると思います。例えば、経営の問題に関しては、長年の企業会計の知識や経験から、水道事業には経営感覚に長けた人材が多いのではないでしょうか。こうした水道経営に関する知識や人材は、下水道事業にも役立つでしょう。また、会計は当然、上水道と下水道で別々ですが、一方が他方から一定期間の資金を借りるなどの資金融通については柔軟性とスビートが高まることが期待できそうです。 水道と下水道が家庭の中ではつながっていると考えれば、水道の水量に関する情報を下水道施設のコントロールに役立てるようなこともあり得ます。システム制御関係が上下水道で一緒になれば、1ヵ所で少人数により両事業を制御できると思います。ソフト面の効果は期待できそうです。ただ、逆にハード面は前述したようにインフラとして下水道と水道は本来混じってはいけないものですし、下水処理場は一般的に下流域、浄水場は上流域にある等の立地の違いから簡単ではなさそうです。ただ、都市内における下水処理水の再利用などは、水道システムや政策との融合、また供給元を「水道」にすることによるイメージの改善により推進できる可能性があります。 水ビジネスの海外展開では協力が期待できます。例えばカンボジアのプノンペンでは、北九州市は水道部局が先行して水道整備を支援して、知識やノウハウの移転、人脈を構築して信頼関係を築き(急速な整備により「プノンペンの奇跡」を実現)、下水道の整備ステージになったら引き続いて同市から職員を派遣して下水道の支援にバトンタッチするという時間差をおいた連係プレーをしています。 今後、高い確率で発生する大規模地震では、下水道の放流口より下流に取水口がある場合等の安全な水供給、人員の融通、薬剤や資機材の融通など多くのメリットが期待できますし、確実にシナジー効果を発揮する必要があります。「違い」を学び、活用する 前述したように水道と下水道を比較して「違い」を 第3種郵便物認可
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