コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 近いようで遠かった水道事業 国交省時代を振り返ると、下水道行政に携わる中で、水に関わる様々なセクションと調整したり、時としては摩擦がありました。同じ省内では河川はもちろん、都市計画、港湾、道路など幅広い部局と接点がありました。他省庁で言えば、環境省のし尿・浄化槽、廃棄物、農水省の集落排水なども下水道行政とは関わりの深い分野でした。もちろん厚労省の水道行政とも関係はありました。私は水道課の職員とはよく講演会などの場で同じ講演者として一緒になる機会が多かったです。ただ、前述した他の行政と比べると、水道行政との関わりは薄かった気がしています。 インフラの管理として考えてみると、下水道は放流先としての河川や海とは直接つながっていますが、水道とはダイレクトにつながっているとは言えませんし、そもそも「上水」と「下水」は混じってはいけない水同士です。そして、下水道施設から水道施設の取水口の間には、必ず河川や海という「環境」がワンクッション入ります。 それでは、どこもつながっていないのかと言うと、唯一つながっている場所があります。それは、家の中です。上水は使った瞬間に下水になります。料金や使用料の徴収が一緒に行われますし、国民目線では上下水道は似ているという感覚があるのはこのためですね。 ところが下水道の行政担当者からすると、“近いようで遠かった”、これが水道に対する偽らざる気持ちではないでしょうか。私も若いころに厚生省の担当者と何か連携事業を考えようと勉強会を行ったりしたことがありましたが、アイデアは取排水系統の再編くらいで、数回の飲み会をやって終わりになっていた気がします。それはそれで楽しく、大いに意味がありましたが。 ただ、下水道にとって水道は災害時には思い切り意識するインフラになります。東日本大震災の時にも実感しましたが、「水道の復旧に遅れてはならない」、「遅れたら街中に汚水が溢れる」といった競争相手のように意識することになります。両方の知識を持つ「多能工」を育てる 冒頭から、統合効果が何もない可能性や、行政としての関わりの薄さなどネガティブなことばかり書いてしまいました。ただ、これは現在までの状況です。上下水道行政が統合化されていく方向になれば、何かが起こるようにしなければならないと思っています。そ第1982号 令和4年11月29日(火)発行(37)コンセプト下水道【第32回】効果がない可能性も認識しておくべき 厚労省の水道行政の大部分が国交省に、一部が環境省に移管されることが決まり話題を集めています。これに伴う国交省の組織体制も準備が進められると思いますが、現場を抱える自治体では以前より下水道事業と水道事業を同じ部局で所管しているケースも多く、このたびの水道移管をきっかけに改めて上下水道事業一元化にスポットライトがあたっている状況です。こうした動きを踏まえ今回は、上下水道事業一元化の効果や期待について私なりに考えてみたいと思います。 この連載にも登場いただいた近畿大学経営学部の浦上拓也先生によると、上下水道事業の統合による経済的な効果の有無についての研究は以前より世界各国で行われてきたそうです。同一企業が複数の事業を手がけることで経済的なメリットが生まれることを専門的には「範囲の経済」と呼びますが、先行研究によれば、上下水道の統合による「範囲の経済」は「ある」と「ない」の両論が存在する状況とのことです。上下水道統合の経済性についてはイギリスやポルトガル、ブラジル、スペインなどの研究者が論文を書いており、1993年から2018年までに発表された計18件の論文のうち、結論として範囲の経済が「ある」としたのは9件、「ない」としたのは7件とのことです(2件は明確な結論なし)。 すなわち上下水道統合効果は「ある」のか「ない」のか、研究者の間でもいまだによく分かっていない、はっきりとした答えがないということです。我々は組織が一緒になると何か効果がある前提で物事を考えてしまう、または何か効果を出さなければならないと考えますが、大きな効果がない可能性もあること、やってみないとわからないことも十分に認識しておいたほうが良いと思います。イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)異分野融合として考える~上下水道一元化について~加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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