コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 を超えてしまう。ふと気が付くと、品質は劣るものの低コスト型の新たな事業や技術に一気に市場を奪われてしまう、そして、この流れは大企業組織では決して避けられない、という内容ですよね。身近な話では、回転寿司やコンビニのスイーツなどに高級店が多くの顧客を取られるのも同様の話かと思っています。山村 はい。この大企業を「水業界」に置き換えると、妙にしっくりきませんか。まさに“水業界のジレンマ”です。 例えば、仮に下水道のBODなどの水質指標が大幅に緩和された場合、使われる技術は大きく変わるはずです。その際は、以前の技術に戻るのではなく、低コスト型の新たな技術が瞬く間に広がるのではないでしょうか。このように、従来技術を駆逐するような技術が出てくると、既存の業界もつぶれてしまう。これを乗り越えるのは非常に難儀で、そのために企業は新規開発事業部のようなイノベーションを興す専門部署をスピンアウト(切り離し独立)して設置すべき、とこの本では提唱しています。水業界はこのスピンアウトの部分が薄くなっている印象で、大丈夫かなと心配しています。加藤 おおむね同感です。BODの話で言えば、確かに水処理技術は高度処理をはじめ、どんどん進化してきましたが、最近は有明海のノリの養殖でアンモニア濃度を上げるような取り組みが行われており、こうした動きがきっかけになり、別の視点で広がる可能性もあります。なぜここまで高いコストを払って水をきれいにしていたのだろうか、放流先の環境から考えてここまで高度な水処理にお金とエネルギーをかけて誰のためになるのだろうか、とふと立ち止まって考える日がわりと近いうちに来るような気がします。 低炭素が求められ、エネルギー不足や人口減少・財政難が続く中、水に関わる企業等はこうした事態が起こりうると想定し、どういう技術やシステムが長期的に加藤 これは話そうかどうか少し迷いましたが、「破壊的イノベーション」の本を読んだ時に、自分の経験で最初に頭に浮かんだのが実は合併浄化槽でした。私が建設省に入って係長時代くらいまでは、合併浄化槽もまだそこまで普及しておらず、下水道の人間は軽んじて見ていたふしがありました。ある上司から「ハイテクノロジーの下水道のライバルにならない、気にする必要はない」とはっきり言われたくらいですから。それが次第に下水道との役割分担で様々な混乱や軋轢を生じたりする時期となり、今や、下水道を整備できない地域や人口減少地域は合併浄化槽に頼っている状況です。 ところで、水にこだわらなくてもよいので、破壊的イノベーションの例として先生はどんなものを思い浮かばれますか。私は回転寿司とか言いましたが。山村 分かりやすいところで言えば、固定電話と携帯電話もそうだと思います。これからの話ですと、3Dプリンタでつくる住宅にも注目しています。どうやら200万円程度で家がつくれるらしく、これまでの住宅づくりは何だったんだと愕然とします。加藤 それはすごいですね。低く見積もっても従来の必要か考えておくべきだと思います。とはいえ現実には、もっと質を下げてもいいのではないかという発想はなかなか出てこないと思いますね。高いものを売って、その何割かを収益とする構造と逆行しますから。普通は「そんな安いものを開発して一体どうするんだ」というマインドだと思います。「そんな質の悪い技術をそもそも自治体が買うのか」という議論も出てきそうです。ただ、のんびりしていると、最初は懐疑的だった自治体も、ごく少数でも事例が出てくれば「本当はその程度で十分ではないのか。高品質で高いシステムとそんなに変わらない」というムードになり意外に普及していくかもしれません。山村 私もそう思います。施設の更新を迎えた時に、本当に資金的に困ったら手を出す自治体もいるのではないでしょうか。1つの自治体が手を出せば、「うちも、うちも」と一気に広がっても別におかしくありません。3Dプリンタの破壊力 第1980号 令和4年11月1日(火)発行(41)山村先生

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