(42)第1976号 令和4年9月6日(火)発行 えば、予算を確保して執行する「予算型組織」です。社会的な存在意義は、水事業の主体として本来は明確であるはずです。問題は、その意識が十分に行き届いていないこともありますが、私は企業とは逆に、業務の「見える成果目標」が立てられていないことにあるように感じています。昨今の事業経営の危機感に起因するPPPの広がりや官民組織の増加は、官側組織のあり方を変える可能性がありますが、官側組織は「効率性」よりも「成果の絶対量」を第一目標にすべきと私は考えています。アート感覚でつくり、浸透させる ではパーパスはどのように見つけ、言葉にすべきなのでしょうか。様々な作成手順のフレームワークが提案されていますが、本来パーパスは、ソニーの「世界を感動で満たす」のように、数値化や定量化ができないものです。だからこそ感性に刺さるのです。本連載で以前、世の中は「目に見えるもの」と「目に見えないもの」で構成されているという話を書きましたが(第6回「アート下水道 ~感性・主観・構想・暗黙知のチカラ~」参照)、パーパスは後者の「目に見えないもの」です。これを捉えるには感性、つまり右脳的な思考が必要になります。また、その感性を言葉にするためには左脳的な働きも求められます。すなわちパーパスを考える上では、これも以前に書きましたが、「右脳から左脳へ転換する力」が大切になってきます(第27回「妄想と名前付けのススメ ~右脳と左脳の往復エクササイズ~」参照)。要素に注目するのではなく、フワフワした「総体」(あらゆるもの)をぎゅっと言葉に集約するイメージでしょうか。絵画や神話のように。いずれにせよ、アート感覚を持った、または大切にする経営者やリーダーの存在が不可欠です。そして、浸透には、理屈でなくやはり感性や五感が効果的です。これもまた以前に本連載で、カトリックが世界的に布教した理由として、ローマ・カトリック教会が賛美歌の音やステンドグラスの光など五感を効果的に活用したことを書きましたが(第29回「キリスト教に学ぶイノベーション ~カトリックが普及した5つの理由~」参照)、パーパスの浸透にも同じことが言えます。ただ、五感の中でも臭いや香りは難しいですね。私もなかなか思いつかないです。コンセプトは「人とDXの協働」 続いて、アート感覚の話から連想し、その可能性が注目されているDXの理解を深めるために、あえてその「限界」について考えてみたいと思います。私は、PPPと並んでDXの時計の針が戻ることはないと確信しています。DXがどのように日本の下水道界の多層な組織・知識構造を変革し新たなアーキテクチャーを創り出すのか、そのビジョンの作成と戦略づくりにも関わっていますが、本来はDXにやや懐疑的(正確にはPCが苦手)なので、まずはDXの限界を先行文献から知り、考えるという方法をとっています。なお、ここではDXの手段であるICTやAIなども構成要素として一括りにDXという概念で表記します。 まず、DXの限界として、アート感覚、すなわち感性が期待できません(人とロボットの恋愛感情を描いた1982年公開のSF映画の名作『ブレードランナー』を観たことがある人は反論するでしょうが)。感性は、人間にとっても認識の外で自然に感じることですから、特定の数値化された目標に向けて機械学習させるDXには困難です。しかし、DXの活用には、誰のどのような「幸福」につながるかを考える感性こそ求められのではないでしょうか。その幸福とは、顧客と自分の組織の社員・職員の両方に向けてのもので、前述したパーパスにも通じるものです。例えば、ドローンによる肥料散布では、農家の過酷な労働を解放し、生活に時間的余裕をもたらします。また、世界的なイノベーションとなった豊田佐吉(トヨタ自動車の前身となる豊田自動織機製作所の創業者)の自動織機は、過酷な作業をしていた職員を少しでも楽にしてあげたいという佐吉の想いから生まれました。 ファシリテーターとして参加した下水道展’22東京のパネルディスカッションで、苫小牧市の三國谷弘明・下水道課長が話されていた内容を聞いて自分の考え方に確信が持てました。同市では大雨の緊急警報時の仕組みでDXを導入しているそうですが、これにより職員の休日出勤や残業が減り職員の家庭の幸せにつながったことを最終的な成果として説明していました。DXは、横浜市のプレゼンにあったように他分野・他組織との連携によるValue(共創)を生むテクノロジーになる可能性がありますが、その本質は「誰をどのように幸せにするか、できるか」に尽きると思いますし、それを 第3種郵便物認可
元のページ ../index.html#37