コンセプト下水道 第21~38回
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入社員はもちろんのこと、M&Aで新たに業務提携した会社や、中途入社の社員たち、そして当社の株主、金融機関に至るまで等しく、私自らがパーパスや経営ビジョン等をお話するようにしています。手前味噌ですが、かなり浸透しているのではないかと思っています。 いかがでしょうか。東亜グラウト工業の素晴らしいのは、何と言っても経営者である社長自身が、直接、このパーパスを社員にある意味「しつこく」、体に浸透するように熱く語りかけていることです。密かに思っているだけではリーダーではありません。そして「お医者さん」というメタファーを使っているのが感性を刺激します。数年前の下水道展では社員の皆さんが白衣を着て体現していました。パーパスを考える視点も「まちづくり」という地域社会、M&Aをした会社、中途採用職員、株主・金融機関まで、あらゆるステークホルダーを考えて語られています。 パーパスは飾りではありません。組織の社員一人一人に浸透し、身体知となり、様々な業務で組織の判断基準になってこそ意義があるのです。山口社長は謙遜されていますが、同社の社員と話すとパーパスという言葉が自然に出てくることからも、着実な浸透を感じます。社員同士の勉強会でも、まずパーパスから入ることがあるようです。 なお、ESG投資の急増もパーパス経営の普及との関連が深いと言われています。ESG投資の統計報告書(2020年度版)によると、運用資産全体に占めるESG投資の割合は欧州で41.6%、米国で33.2%、日本も24.3%まで伸長してきています。低炭素社会に向けた新たな財源になることは間違いありません。第3種郵便物認可 パーパス経営にぴったりな下水道事業 これまでの話から、パーパス経営について手が届かないと感じられる方もいるかもしれません。一方で、改めて(あるいは初めて)自分の組織の社是やビジョンを見ると、実はパーパスに近いと思う方も多数いるのではないでしょうか。水企業には自社の技術アップや品質だけに焦点をあてている組織がある一方で、「安全・安心な暮らしを未来につなぎたい」「高い技術力を前提に事業全体を俯瞰できる能力を身につけ、社会公共に生かす」「水と環境のサービスを通じて豊かで安全な社会を創造」のような組織目的やトップメッセージを発信している企業も現れています(どこの企業のメッセージかはお探しください)。私もパーパスについていろいろと勉強していくにつれて、水インフラに関係する組織は元々、社会的な価値を考えたパーパスを掲げている(形式的なものを含めてですが)、またはパーパスをつくることができると感じています。下水道事業は、水質保全や衛生環境、浸水対策、低炭素社会の実現といった地球環境から地域にわたる社会課題に、官と民と市民という多数のステークホルダーの協働により取り組む産業です。目的として意識できていなかったのは、もしや「公的目的ボケ」でしょうか? ともかく明らかな課題は、組織に浸透していない、そもそも浸透させようとしていないということです。浸透により、社員のモチベーションアップや一体感、イノベーション、多様なステークホルダーとの対話などの機会を広げる余地があります。 さらに、学生リクルートとの関係についても考えてみます。将来の世の中で見えない時代には、成績や経歴ではなく、ブレないパーパスに真に共感した学生をいかに採用できるかが、本人の活躍と組織の将来を左右すると思います。パーパスへの共感が、ある意味で組織と職員の“契約条件”です。そのため、「入社したけど共感したパーパスと違っていた」「ホームページ上の飾りに過ぎず、幹部からも聞いたことがない」ということなら、さっさと転職したほうがお互いのためかもしれません。 さてここまで、どちらかというと、営業目標等の数値目標に日々縛られて目的や組織の存在意義を見落としがちな民間企業を想定して書いてきました。では、官組織についてはどうでしょうか。官組織は一言でい 第1976号 令和4年9月6日(火)発行(41)山口社長(左)と筆者

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