コンセプト下水道 第21~38回
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(34)第1970号 令和4年6月14日(火)発行  ところで先日、たまたま奈良県の吉野で仏教の住職さんとお話しする機会がありました(初めての滝行で長年の(?)邪悪を流してきました)。お寺の仏様の周囲に並べる金色に光り輝く美しい装飾品(視覚)や、木魚の音(聴覚)、線香の香り(嗅覚)は、極楽浄土を五感で意識してもらうとともに、お経を唱える一体感をつくるねらいがあると話されていました。カトリックと近い方法論だと思いました。 さて、最後の5つ目が「伝道師の育成と教育」です。伝道師と言えば日本にも訪れたイエズス会のフランシスコ・ザビエルがまず思い浮かびますが、彼らは現地の言葉を覚えたり翻訳をしたりと一様に熱心で、その熱意が多くの人たちの心を動かし信者の獲得につながりました。また、ザビエルも所属したイエズス会は、若者や女子への教育に力を入れていたことで長期的な持続性の確保に努めたことも知られています。こうした熱いハートで意識が高く、普及のノウハウを有する伝道師の存在と、それを育成・教育するシステムが普及の大きな基盤になっていたことは想像に難くないと思います。下水道が学ぶべきこと ここまでカトリックの歴史を振り返るとともに、普及した理由を私なりに考えてみました。最後に、本シリーズは下水道を対象としているので下水道事業との関連において学ぶべきことを思いつくがまま、少しだけ並べてみたいと思います。 まずWin-Winの関係構築は比較的わかりやすいと思います。今後は、業界の中や外、官と民、そして地域においても関係者がネットワークを形成することが重要ですが、その際にはWin-Winの関係を意識していく必要があります。ビストロ下水道では農家も自治体も低コストになることが普及の一因になっていますし、PPPであれば自治体、企業(地元を含め)、市民にとって三方良しのWin-Winの仕組みをつくる必要があります。 一体感・つながり感や既存文化のリスペクトに関しては、自治体の枠を超えて広域的なつながりをコーディネートしながらも、地域ごとの水文化や産業振興を尊重することの大切さを認識できます。汚水普及率という統一的な目標が達成しつつある中、課題は多様化していますが、日本の下水道界全体の一体感やつながり感をどのように醸成すれば良いのでしょうか(形式的な会合は多数ありますが……)。共感できる目標が第一に重要ですが、テクノロジーとしては左脳的なDXの活用には期待したいところです。 右脳的な五感の話で言えば、産官学や市民が五感で共感し合える場をつくる必要を感じます。ビストロ下水道の収穫の喜び、川や海の色や街の中で感じる臭いなど、新たな課題は五感から発見できそうです。伝道師についても、下水道の世界でも不可欠な存在のはずですが、果たして誰(どの組織)がそれを担っていくべきなのでしょうか。次から次へと政策が打ち出されますが、同時に優れた伝道師を育てていく必要があると考えます。 今回はキリスト教をイノベーションの普及という視点から考えてみました。ついつい世の中にあふれるハウ・ツー本を読み漁りたくなりますが、身の回りにあることに問題意識を持ち、調べて考えてみる、自分の業務にも応用する、という態度も必要ではないかと感じています。十字架に架けられ、没後2000年経っても世界の人々の行動や考え方、心に大きな影響を与え続けているイエス・キリスト。皆さんは、この力をどのように捉えるでしょうか。 第3種郵便物認可『受胎告知』(レオナルド・ダ・ヴィンチ作)

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