コンセプト下水道 第21~38回
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(32)第1970号 令和4年6月14日(火)発行 ありませんし、歴史には諸説あります。学問としての正確さに関しては甚だ自信がないことをあらかじめご承知おきください。Win-Winの関係を構築してきた歴史 キリスト教(カトリック)がなぜ世界へ拡大していったか。様々な論考がありますが、私なりの解釈で大きく5つの点に整理してみました。 1つ目は「Win-Winの関係構築」です。キリスト教の普及は、十字架に架けられたイエス・キリストが数日後に復活し、弟子たちに布教の必要性を伝えたところからスタートします。弟子たちは迫害を受けながらも少しずつ布教活動を進め、ローマに教会を建てました。これがカトリックの総本山であるローマ・カトリック教会で、ここを中心にカトリックが広がっていきます。当時、ヨーロッパを支配していたのはローマ帝国です。当初はカトリック教徒を迫害していましたが、313年、時の皇帝であるコンスタンティヌス帝が「ミラノの勅令」によりカトリック教徒に信教の自由を与えたことで、カトリックは飛躍的に普及しました。この皇帝、最後はカトリックに帰依することになるのですが、実は戦略的にカトリックを公認したとも言われています。ローマ帝国が掲げる「唯一の神、唯一の皇帝、唯一の帝国」という構想に、イエスの「世界の民は一つに結ばれる」という教えが一致したため、戦いをしないで効率的に帝国を拡大するためカトリックを「使った」というのです。 さて、時代は遡って16世紀の宗教改革でキリスト教はカトリックとプロテスタントに分かれます。プロテスタントの登場によりカトリックの信者が減ってきたことに危機感を感じたローマ教皇はポルトガルとスペインにカトリックの布教を条件に発見した土地の所有を認めました。ポルトガルやスペインの国王としては領土を広げたい。一方、カトリック教会は海外に布教して信者を増やしたい。こうした利害が一致したことで、多くの宣教師たちが世界各地へと旅立ち、ヨーロッパ以外の地域にもカトリックが広まるきっかけになり第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第29回】~カトリックが普及した5つの理由~最も普及したイノベーションはキリスト教!? イノベーションは起こすだけでなく普及して初めて成功したと言えます。これは、エベレット・ロジャースのイノベーション普及理論や、ビストロ下水道の事例などをもとに、これまで本連載でも何度か言及してきました。では、実際に世界で最も普及したイノベーションはなんでしょうか。私はふと、それがキリスト教ではないかと思いました。キリスト教徒は世界の全人口の30%を占めていると言われています。これは宗教別にみると最も多く、第2位がイスラム教の20%、第3位がヒンドゥー教の10%です(ちなみに仏教は5%程度)。また、キリスト教にはカトリック、プロテスタント、ギリシャ正教会など様々な宗派がありますが、キリスト教徒の半数を占める最大宗派がローマ教皇を最高指導者とするカトリックです。 宗教というイノベーションは、改宗も含め、それまで各地で信じられていた信仰や日々の生活の礎を大きく方向転換することを意味します。確かにインターネットやスマートフォンといったイノベーションも画期的ですが、利便性を追求する技術革新の延長線上だと言えなくもない。信じるものを新たにつくる、または変える、そして普及されるという宗教のスケールにはおよばない気がします。 なぜキリスト教(特にカトリック)は世界的な普及が可能だったのか。関心を持ちいろいろと調べてみました。今回は、その中で発見した、現代のイノベーションにもつながる方法論について書いてみたいと思います。もちろん私は宗教家でも神学者でも歴史学者でもキリスト教に学ぶイノベーション加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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