コンセプト下水道 第21~38回
27/70

第3種郵便物認可  アイデアはいいけど実現しない。フワフワ妄想を整理できない。そういう人たちのために名前付けをお勧めします。下水道の世界に限らず、不確実性の高いこれからの時代、右脳と左脳の両方を使うことが求められていますが、そのトレーニングに名前付けはもってこいだと思うからです。まずは、私の高校時代のように雲の形を何かに例えたり、美術作品に勝手に名前を付けたり、街歩きで目に入った何気ないものを何かに見立てることから始めてみてはいかがでしょうか。 ちなみに内向的な私は公式の飲み会終わりによく一人飲みをすることがありますが、皆でワーワー喋り合った余韻、波動に浸りながら静かな場所でゆっくりしている、そんな時にアイデアや名前が浮かぶこともありました。たまにジムで走っている時に浮かぶこともあるので、その時は忘れないように携帯電話で自分宛てにメモを送ることもあります。「ガリガリ君」の秀逸さ では、どういう名前が好ましいのでしょうか。私はメタファー(暗喩)、あるいはアナロジー(相似性)の要素を持った名前が良いのではないかと考えています。メタファーは「時は金なり」のような意味を置き換える喩えです。一方、アナロジーは飛行機が鳥の形を模したものであるように、形そのものが近い関係にあるものです。 アナロジーの最強の事例が下水道の世界にあります。下水道既設管路耐震技術協会が開発した「ガリガリ君」です。既設のマンホールをガリガリと削ることにより耐震化を図るもので、ガリガリと削る行為と技術名がアナロジーの関係にある秀逸な名前だと思っています。しかも「ガリガリ君」と言えば赤城製菓の冷たいアイスが思い浮かび、馴染みのある名前だと言えます。 名前ではないのですが、管路更生のSPR工法にも触れておきたいと思います。SPR工法と言えば、管内をぐるぐるとらせん状に製管していく工法で、下水道の関係者の中では有名です。以前、国会で国土交通大臣が管路更生を説明することがあったのですが、説明しながら片方の手をぐるぐると回していました。形態アナロジーですね。つまり、下水道関係者以外でも管路更生と言えば「ぐるぐる」と手をまわすほど広く認知されているわけで、これもある意味、名前付けと同種の効果をもたらしているのではないでしょうか。 国土交通省が平成26年に策定した「新下水道ビジョン」のキーワードである「変態」も印象的です。この名称は当時の岡久宏史部長の発案でした。これからの下水道は、成長だけではなく、幼虫がさなぎを経て蝶へと「変態」していくかのように、時代の要請に応じてダイナミックに役割を変えていくべきだというメッセージで、下水道を虫に喩えたメタファーでもあり、変態という形や動きに喩えたアナロジーでもあります(さらに「変態」と聞くと、自ずと別の意味が思い浮かぶキャッチーさもあります)。 最後に、平成23年の国交省の省内再編で生まれた「水管理・国土保全局」についても紹介しておきます。当時、下水道事業調整官だった私も、新たな局の名前を議論する会議に参加していました。最終的に決めたのは当時の河川局長だった佐藤直良さんです。この局の名前が凄いと思ったのは、道路局や住宅局など、ほとんどの局が「モノ」を名前に付けている中、「水管理・国土保全」という「行為」を名前にしているところです。それまでは別々の局だった複数の組織が一体となった水管理・国土保全局で、職員一丸になって取り組もうというメッセージが込められていると感じました。名前付けには、関係者の士気高揚にも効果があるのです。なお、佐藤さんは私の高校の大先輩ですので、同じように教室から海に浮かぶ雲を見ていたのかもしれません。 そういう意味では組織の名前付けも大切です。まずは妄想でよいので、自分の所属する会社や部署の目的や将来像を描き、そこから新たな名前を考えてみることから始めてはいかがでしょうか。右脳と左脳を往復する良いエクササイズになると思いますし、自分の組織が何を目的としているのかを再認識する良い機会になると思いますよ。 第1963号 令和4年3月8日(火)発行(39)

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る