コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 できるのかという物差しになるので、下水道が地域にとって不可欠な存在であることを市民にも理解してもらいやすくなるかもしれませんね。大きなコンセプトと異分野連携加藤 研究を行う上でモットーのようなものはありますか。藤原 いろんな関係者との連携を意識しながら、「コンセプト」をベースに研究を行うことを心がけています。研究者によってはボトムアップ型と言いますか、科学的な知見・発見を積み上げて次の段階に進めたり、深掘りしたりする研究スタイルの方もいます。私の場合は、こういう社会をつくりたい、こういう大きな目標を達成したいという「コンセプト」がまずあり、それを実現するために、どういう要素技術が必要なのかを考えるといったスタンスです。基礎研究も、将来的にスケールアップし実用化することを念頭に置いて取り組んでいます。 大きなコンセプトに向けて自分一人の能力や知識では達成できない場合は、異分野の研究者や、学以外の産や官との連携を大切にしています。また、その時はお互いがハッピーに、ウイン・ウインになれるように常に心がけています。産官学の連携もそうですが、学同士の連携においても分野が異なると評価軸やこだわるポイントが違います。風土が違うと言ってもいいかもしれません。とはいえ自分と違うからその相手がダメだと思うと絶対にうまくいきません。「自分が知らないことを教えていただいてありがとうございます」という謙虚な姿勢や、「知らないことを知ることができて楽しいよね」という前向きな気持ちで連携に臨むのが大事だと思っています。 以前、科学技術振興機構のCREST(戦略的創造研究推進事業)というプロジェクトで、水産業や農業、畜産など様々な研究者と一緒に、地域の資源循環の新たな仕組みを研究したことがありました。その時は、異分野の研究者の方たちと情報交換や意見交換を行うその過程こそ勉強になりました。計画段階からディスカッションし、お互いに教え合って、成果も共同で出すという本当の意味での共同研究ができたと思っています。その経験から、産官学の連携による下水処理技術の開発においても、お互いのリスペクトと学ぶ気持ちを忘れずにやれたのが上手くいった理由の1つかなと考えています。加藤 すごくしっくりきます。コンセプトを決めて、目的に向けて試行錯誤を繰り返していく、いわゆる「バックキャスト」と呼ばれる発想ですね。そして、異分野との連携を大事にする。「連携」という言葉は、お決まりのワードですが、どう連携したら成果が出るのか、そのためのプロセスは研究途上です。お互いに学び合いリスペクトし合うという「連携」の本質を聞いた気がします。藤原 最近、これまで取り組んだ産官学連携の経緯やメリットを整理する機会があり、その中で、産、官、学がそれぞれ何を望み、何に満足したかが可視化することができました。これから産官学の連携を始めるようとする方々にとって、相手が満足するにはどういうことに気をつければよいか等を考えてもらえる参考資料になるかなと思っています。近く英文の書籍で発刊される予定です。加藤 それはぜひ読んでみたいです。確かに、相手や社会にとって役に立つ、そして、それを他者と「つながり」をもって遂行していく喜びがあると、モチベーションは上がり大きな成果が期待できます。藤原 そうなんですよね。私も学の人間なので、高知県でOD法における二点DO制御システムの研究を始めた時は純粋に面白いからという動機が先行していましたが、実験がスケールアップし、産官学の連携による実証段階に進むにしたがい、自分の研究が社会に役に立つ形として実用化することの喜びが生まれてきましたし、それが実験を行った高知県だけでなく、全国に広がっていくことを目の当たりにして、さらに嬉しい気持ちになりました。産官学の連携の中で、当初は思ってもみなかったような喜びが広がっていったのは自分にとっても幸せだったと感じています。逆に、こういう経験をした研究者はあまりいないのではないかと思いますので、自分の経験を皆さんにお伝えし、また違う形の産官学連携の参考になればと思っています。加藤 この連載(コンセプト下水道)にぴったりなお話です。本日は脱炭素から地域貢献、異分野連携など幅広いお話を伺うことができ、非常に勉強になりました。ありがとうございました。 第1960号 令和4年1月25日(火)発行(47)

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