コンセプト下水道 第21~38回
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(46)第1960号 令和4年1月25日(火)発行 までの10年間で導入していく。これが考え方のベースになると思います。 新たな発想の技術という意味では、現在の活性汚泥法を前提とした下水処理場のシステムそのものをやめてしまうことも視野に入れるべきです。従来の下水道システムを「脱炭素下水道」につくり直すくらいの意気込みで、少なくとも大学人としては研究を進めていきたいと考えています。加藤 具体的にはどういう技術を想定されていますか。活性汚泥法等の酸素利用の処理法での省エネは限界にきているのではと思います。長期的な視点で、例えば嫌気MBRなど、嫌気性水処理への転換等も考えるべきではないかと思いますが。藤原 確かに嫌気性水処理はエネルギー回収の観点でも大きな要素技術になりえますので、脱炭素に向けたカギになると思います。嫌気だけで水処理として求められる水質をどう担保するのか等のクリアすべき課題もありますが、好気性水処理とうまく組み合わせるなど、いろんな形がありうるのかなとは思っています。パフォーマンスのよい嫌気MBRなども出てきていますので、実現の可能性は高まっていると感じています。 1970年代の高度成長の時代に整備された下水道が土木構造物の耐用年数である50年を迎えつつあります。新時代の下水道につくり直せる良いタイミングなのかなとも思っています。こうした脱炭素に向けた下水道の取り組みが、地域社会の明るい未来にどう貢献できるかという前向きな議論になると面白いですよね。地域に価値をもたらす下水道へ加藤 地域社会の話が出てきましたが、先生は高知県をはじめ、これまでも地域全体で考える取り組みを進められてきました。その難しさや、成功の秘訣などはありますか。藤原 私の場合、幸いなことに高知県で非常によくしていただいたので、些細な苦労はあったにせよ、皆さんのおかげでうまくいったという感謝の気持ちしかありません。一方で、制度面などいろんなハードルや壁があることも事実です。どうやったらそのハードルや壁を乗り越えられるか。これを皆で考えることが重要だと思っています。加藤 今、SDG(持続可能な開発目標)が注目されていますが、脱炭素のような国際的・地球全体的な話と、そのために地域で行う活動を結びつけるのは、なにか仕掛けが必要です。藤原 そうですね。ただ、省エネルギーになればコストも下がりますので、温暖化対策と地域のコスト削減という2つのメリットが同時に得られる取り組みだとは思います。加藤 地球全体にとってのメリットと地域にとってのメリットの両方に貢献するような仕組みがポイントになると思います。地域循環であれば、多様なステークホルダーのそれぞれにメリットがあるような仕組みづくりをするのが成功のポイントになるのと同様です。 さて、冒頭に、「産官学民金」というキーワードが出てきましたが、金融機関を含めているのはどういうイメージですか。藤原 私は、下水処理場を、単に下水を処理する場所から、地域に価値をもたらす場所に変えていかなければならないと思っています。下水処理場が地域の産業の中核になれば、地域が疲弊した時も住民にとっては不可欠な施設として存在し続けます。価値を生み出すことができれば、その存在に対して投資をしてもらうという側面も出てきます。そうなると、金融機関も巻き込んだ地域の産業振興という面も考える必要があると思い、「産官学民金」という言葉を使わせてもらいました。加藤 最近流行りのESG投資なんかも含めてということですよね。藤原 そうですね。加藤 下水道への投資において今までは建設費と管理費で水質改善などの費用対効果を出してきましたが、この評価の仕方を地域全体の効果などに変えていく必要があるかもしれませんね。ドイツのある都市のシュタットベルケでは、水道、電気、プール等、実施している事業メニューごとに投資額の何割が地域に還元されているかを公表しています。日本もかつてのような高度成長型は期待できないですから、循環経済の考え方は地域の一大産業である下水道には必要です。藤原 それができれば、どれだけ下水道が地域に貢献 第3種郵便物認可

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