コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 影響とそれに伴うリスクが顕在化している、すなわち危機に瀕しているとの評価がなされています。これは、空気中の窒素ガスからアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法が発明され、化学肥料がつくられるようになったことに起因しています。その結果、食料需要を賄えるようになり、人口増加という大きな問題が表面化しました。今後、自然界の中で安定的な窒素に戻るキャパシティーを超えてしまうほど、人為的な反応性窒素の合成が進んでしまうのではないかとの懸念が指摘されています。 下水処理は、硝化と脱窒、すなわちアンモニアを硝酸に変えて硝酸を窒素ガスに変える生物化学的な一連の処理を行っています。ある意味、反応性窒素を安定的な窒素ガスに戻すプロセスです。プラネタリバウンダリーの窒素循環という観点で言えば、下水処理は役に立つ技術だと言えるのです。ただ、それを実施するためにどれだけのエネルギーがかかるかというと、様々な下水処理の方法がある中で、硝化・脱窒を伴う高度処理が最も原単位が大きい。つまり下水処理場での高度処理は、窒素循環の改善には有効であるものの、消費電力量や二酸化炭素排出量は増加してしまうわけです。加藤 なるほど。脱炭素をめぐって下水道システムではメタン発酵による創エネに関心が集まっていますが、窒素循環の核でもあるということですね。最近は、水素と並んで、下水処理場にも入ってくるアンモニア自体がエネルギー源として着目されていますよね。藤原 はい。理由の1つは、燃焼する時に二酸化炭素を出さないという点です。石炭火力発電所で混焼することで二酸化炭素排出量の削減が期待されています。また、水素に比べると、海上での輸送が容易であるとの利点も言われています。水素をアンモニアに変換して輸送し、利用場所で水素に戻すという研究もされているようです。ただ、石炭火力発電との混焼を国内でやる場合、2000万トンほどのアンモニアが必要と言われていますが、これは世界全体のアンモニアの輸出入量とほぼ同量で、到底足りないという状況です。そこで、今は捨てられている廃水中のアンモニアをうまく回収して利用し、エネルギー問題の解決や脱炭素社会の実現に貢献できないかという考え方が出てきました。 アンモニアは、燃焼時は出ませんが、製造する過程では二酸化炭素が出てしまうため、その問題を同時に解決する必要があります。そのため、製造過程で出た二酸化炭素を地中に貯留する「ブルーアンモニア」や、再生可能エネルギーを用いた電気分解により水素を製造することで二酸化炭素を出さない「グリーンアンモニア」などの取り組みが進んでいます。 同時に、「ムーンショット」という国の大きな研究開発制度の中で、廃水からのアンモニア回収の研究も行われています。廃水に含まれる低濃度の窒素を回収し、濃縮し、アンモニア資源として活用するというプロジェクト(研究代表者:川本徹)で、私も研究者の一人としてこのプロジェクトに参加しています。下水処理場に流入する窒素のポテンシャルはかなり高いと考えられていますが、流入水の窒素濃度が薄い点が課題です。そのため、現在普及している活性汚泥法を前提とする場合、流入水から直接、アンモニアを回収するのは得策ではありません。ある程度の濃度がある汚泥系を対象に開発を進めるべきではないかという見解が小島ら※により示されています。※ 小島啓輔、加藤雄大、隅倉光博、川本徹(2021)「下水処理場における窒素由来のエネルギーポテンシャルの試算とその利用に関する考察」下水道協会誌、58(708)、78-87.「脱炭素下水道」につくり直す気概で加藤 脱炭素社会に向け、下水道分野の技術の研究や開発という観点からはいかがお考えですか。藤原 2030年までに46%削減という目標に関しては、あと数年後に迫っており、今から新たな技術開発をしている時間はありませんので、すでに開発済みの技術を総動員して目標達成に向けて取り組んでいくのが1つの方向性だと思います。一方で、2050年カーボンニュートラルに向けては既存の技術だけで実現することはなかなか難しい。そのため、2040年までに脱炭素に対応できる新たな発想による技術を開発し、2050年 第1960号 令和4年1月25日(火)発行(45)藤原先生(対談はZoomで収録)

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