第3種郵便物認可 心理的安全性がない状態の一番の問題は大きなミスにつながってしまうことです。小さな失敗を見つけても上司に言えない。そうなると改善の提案は生まれません。小さな失敗や問題点を自由に発言できないムードが最終的には取り返しのつかない大惨事につながることがあります。例えば、アメリカ航空宇宙局(NASA)のコロンビア号空中分解事故です。スペースシャトルが発射する一週間前にあるエンジニアが1つの問題を発見しました。しかし、それを発言しなかったためというか、会議の場で偉い人達の「問題ありませんね?」というムードの中では階層が下の立場の弱いエンジニアに発言する勇気がなく、大惨事につながったと言われています。また、病院を舞台にしたテレビドラマなどでもよく研修医や看護師さんが手術中に見つけた小さなミスが大きな医療事故の原因になったという、実話のような話が描かれています。こうした場面に共通しているのが「心理的安全性」の欠落です。組織内に心理的安全性が保たれ、偉い人に対しても小さなミスを発言でき、共有できていれば、大きな事故を防ぐことができたのかもしれません。 上下関係だけでなく、心理的安全性がないと、異業種同士や立場の違うメンバーによる横のチームプレイが円滑に進まないという弊害もあります。先ほどの病院の例で言えば、医局と薬局の連携を想像してみてください。病院の診断に応じて薬局が最適な薬を処方する。疑問点があれば薬局から医局に問い合わせるような適切な連携プレーが必要になります。これを、下水道事業で置き換えるとしたら、官民連携事業などの大規模事業で見られる文化や得意分野が異なる会社同士のJV(共同企業体)のメンバー間の連携や、PPPでの官と民の対等な連携でしょうか。特に、異業種連携では、その最大の効果であるイノベーションを生み出すためにも、互いにモノが言える空気感を常に保っておくべきだと思います。そもそもイノベーションは失敗から学ぶことが多いので、失敗を恐れる必要は全くないのですが。リーダーは自ら声をかけるべき 「大きなミスにつながる」「連携が上手くいかない」と心理的安全性がない状態のデメリットを説明してきましたが、ではこの状態を打開するにはどうすればよいのでしょうか。何でもモノを言える雰囲気が大事と言っても、組織の上下関係に縛られ、普通は部長や課長などの幹部に何でもモノは言いにくいものです。そこで大事なのがリーダーの役割です。空気はリーダー次第で変わります。「何かあったら何でも言えよ」と声をかけるだけでは十分ではありません。多くの組織に言えることだと思いますが、幹部には個室などが与えられており、気軽に入っていける雰囲気にないからです。「この部屋のドアはオープンだからいつでも…」という方がいましたが誰かが入っていくのを見たことはありませんでした。リーダーに必要なのは、部屋を出て実際に立場の弱い地位にいる職員、すなわち心理的安全性が低い傾向にある階層の職員に自分から声をかけて何でも言える雰囲気を自ら実践することです。あなたの職場のリーダーはどうでしょうか? さて、人・モノ・カネのマネジメントという言葉があります。モノとカネはよく分かるのですが、「人のマネジメント」という言葉に関しては、個人的には危うい印象を持っています。「人のマネジメント」と言ってしまうと、仕事の行動や時間、逐一の出張まで管理する“お目付け役”のようになりがちです(組織学では「マイクロマネジメント」とも言います)。一定の必要性はありますが、それで幹部として自分は人をうまくマネジメントしている、仕事をしていると勘違いしているリーダーがいると思います。そういう職場は息苦しいですし、心理的安全性とは逆行します。それよりも、職員や社員に声をかけ、鼓舞して頑張る雰囲気づくりこそ、まさにリーダーシップと言えます。混沌としている今の時代に必要なトップの姿はマネジメントよりリーダーシップです。そうしたリーダーの下では自由にモノが言えますし、イノベーションや異分野との融合も生まれるものだと考えています。 そして、自ら部屋を出て声をかけること以外にも、心理的安全性を創るためにリーダーがすべきことがあります。例えば、自分の弱みを見せること、リーダー自らが失敗や間違いを認め、積極的に見せることで、失敗に対する寛容さを示すというようなことです。もっと言うと、個としての人間らしさを見せて、部下と同じ目線に立つことです。あなたの自虐ネタはなんでしょうか? 私はクワガタや占いが好きと平気で話しています。ただ、これではなかなか同じ立場に立ってくれるどころか奇異な目で見られることが多いですが(笑)。 一方で、やってよいことと、そこから先は好き勝手にやってはいけないことの境界を設けることも、リーダーとしてやるべき行動の1つです。部下にとっては境界が曖昧で予測不可能な場合は、逆に一歩も踏み出せないことにつながります。 第1943号 令和3年5月18日(火)発行(45)
元のページ ../index.html#2