コンセプト下水道 第21~38回
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第3種郵便物認可 イノベーション理論からDXを考える 次にDXをイノベーション理論から考察してみます。イノベーション理論については以前に詳しく書いたので、今回は要点だけ押さえますが、イノベーションは大きく「効率性のアップ」と「新たなValue」の2種類があり、それらが相互に作用し合っています。2種類の違いの分かりやすい例として、前者が扇風機、後者がエアコンという話もしました。詳しくは第22回「イノベーションとユングのタイプ論」(下水道情報第1946号に掲載)をご覧ください。 イノベーションのゼミで学生に話すのは、スターバックスです。スタバでは空席待ち解消や回転率アップを目的にテイクアウト方式を採用し、近年はモバイル決済や事前オーダーも導入しています。これらは直接的には効率性や楽ちんにつながるイノベーションです。一方で、スタバのコンセプトでもある「癒し」と「くつろぎ」の空間づくりという「新たなValue」にも貢献しています。「効率性アップ」が「新たなValue」を生む、わかりやすい事例だと思います。 スポーツブランドのナイキも面白い取り組みをやっています。時計タイプのウェアラブル端末を使って脈拍などを計測し、健康管理を行うというものです。データ収集の手間を省くという意味では「効率性アップ」ですし、スポーツブランドにとっては健康分野という「新たなValue」の創出にもつながっています。 「効率性アップ」と「新たなValue」。成功しているDXはこの2つの要素から成り立っていますが、順序としてまずは「新たなValue」から考えるべきだと思っています。これはなかなか難しいことで、目の前にあるテクノロジーの活用から考えたくなるものではありますが(いわゆるフォアキャスト)、それは視界の端の方に置いて、正面には社会で求められている価値、さらには人間が本質的に求めている価値から必要な技術を考えてみることがポイントです(バックキャスト)。人間が本質的に求めている価値とは、健康、生活の楽しさ、ワクワク感など定性的なものなのです。オープン・ネットワークとキーストーン DXはオープンイノベーションを加速化します。その事例として紹介されるのが、建設機械のコマツのデジタルプラットフォームです。自社のブルドーザーの稼働状況などのデータが集約されているだけでなく、測量から施工管理まで建設関係業界の誰でもアクセス可能なシステムで、人材難に悩む日本の建設業界全体への「貢献」がコンセプトの1つとなっています。私は、「オープン・ネットワーク型」の持つ発展可能性に注目しており、下水道業界全体の進化にとって大いに学ぶ第1956号 令和3年11月16日(火)発行(37)イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第25回】~社会と技術の対話~DXのコンセプトは牛丼 今、盛んに言われているデジタルトランスフォーメーション(DX)。下水道事業でもDXの推進が大きなテーマになっていますので、今回はまず、最近、講演や投稿でお話ししているDXのコンセプトから始めたいと思います。 コンセプトを考えるときに隠喩(メタファー)が効果的であることは以前も書きました。例えば「時は金なり」など。端的で分かりやすく、コンセプトの共有が円滑になるからです。その観点で、DXを何か他のものに例えて私が一番しっくりきたのが、「牛丼」(吉野家のもの)です。  牛丼と言えば「早い、安い、うまい」のキャッチコピーが有名です。一方、DXの効果や特長は、デジタル化による「高速」「低コスト化」「高品質・付加価値」の3つに集約されます。「早い」=「高速」、「低コスト化」=「安い」、「うまい」=「高品質・付加価値」と考えれば、DXと牛丼の類似性がよく分かると思います。また、人と社会の笑顔や幸せを目的とするところも、DXとの牛丼の共通点です。ちなみに私にとって牛丼を味わうことは一過性でなく青春時代のメモリーとなっています。四十年以上も前の高校生時代に、バスケットボール部の練習の帰りなどに腹ペコになって一緒に食べに行った友達を思い出します。 話は脱線しますが、「早い、安い、うまい」という基本コンセプトはDXだけでなく、様々な政策分野、例えばゲリラ豪雨対策にも当てはまります。ゲリラ豪雨対策と言えば「早期対応、低コスト、安全・安心」ですが、「うまい」を「安全・安心」に置き換えてみるわけです。このコンセプトはDXだけでなく様々な施策に応用できる普遍性があるので新しいコンセプトを考える際には、参考にしてみてください。吉野家の牛丼共創と共進加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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