コンセプト下水道 第21~38回
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(42)第1950号 令和3年8月24日(火)発行 という印象があります。実際に活動されて、継続していくためのカギはどこにあると考えられていますか。見山 国際ビジネスや多国籍企業などの経営学で前提としているのは新興国への「進出」です。ノウハウや経験を持つ先進国が、新興国をより豊かにするため進出するイメージです。一方、BOPビジネスはそうではありません。BOPは所得階層の一番下の人たちを支援するため、彼らを重要なステークホルダーにするというビジネスモデルです。そのため、本当の意味で現地のことを知らないと実現できません。現地の人たちが何を課題に感じ、何を価値と思っているか。先進国が現地の人に押し付ける価値は価値ではありません。成功のカギを一言で表すならば、現地の目線に近づけるかどうか、ではないでしょうか。小手先ではやれないビジネスだと思います。加藤 プロセスを考えていく上で、手順のテンプレートはあるとしても、ある地域のビジネスモデルのコピーは通用しないということだと思います。SDGsはある意味、企業の原点回帰加藤 少し話題を変えますが、盛り上がりを見せているSDGsについて様々な場で講演し、企業のサポートをしている見山先生はどのように捉えていますか。率直なご意見をお聞かせください。現時点では、既存事業のラベリングにとどまってしまっている気がしています。見山 環境問題は京都議定書が締結された1997年頃をきっかけに大きな盛り上がりを見せ、それが、かれこれ20年くらい続いています。環境問題への取り組みに関する名称はCSRからESG、SDGsと変わってきましたが、創成期から関わっている人間からすると、根っこは何も変わっていません。言葉に踊らされているという印象は拭えませんが、それでも少しずつ前に進んでいるとは思います。 環境問題と一口に言っても、環境だけをやればいいわけではありません。社会的な課題を解決していくというアプローチもありますし、ビジネスの世界では環境と経済をどう両立させるかという話は昔から議論されてきました。CSRが出てきて、ようやく環境と経営が統合されたと思ったのですが、本業か社会貢献かという別の軸で捉える考え方には若干違和感がありました。ESGになって投資家の視点が入り、理想に近づいたのですが、それでも投資家と企業の関係にとどまっていました。一方、SDGsは、国も自治体も企業も大学も同じ指標で語ることができる。初めて環境と経済の両立が社会全体の中で位置づけられた意義はあると感じています。加藤 まずは、あらゆるステークホルダーの共通言語ができたこと。そして、「環境と経済の両立」が明確に位置付けられたということですね。 ところで、SDGsには17のゴール(目標)が位置づけられていますが、ぜひお聞きしたいのは、この17のゴールは並列に論じてよいものなのか、それとも濃淡があるものなのでしょうか。見山 SDGsのゴールは1番が「貧困」、17番が「パートナーシップ」です。なぜ最初が「貧困」か。これは、すべての社会的な課題が社会的弱者に影響を及ぼすという考え方がベースになっています。また、17番目は、だれかが単独で頑張っても解決しないから皆で同じ課題を共有して取り組もうというメッセージです。ですから、2~16のゴールは1と17にすべてつながっていくと考えています。 よく企業が1番の「貧困」は関係ない、途上国の問題だと言って飛ばすのですが、貧困を「潜在能力の搾取」と捉えれば社会的弱者という人たちはどこの世界にも存在します。お金やモノの貧困だけでなく、心の貧困もあり、いろんな問題につながっていきます。1番の「貧困」は絶対に飛ばしてはいけないゴールだと思います。 SDGsを考える際は、自分たちの組織にこのゴールは該当するか否かという「カルタ取り」ではなく、すべてのゴールはつながっているという意識のもとで、どういうつながりがあるのか想像を膨らませることが大事だと思っています。加藤 確かに下水道関係でも、圧倒的に多いのは水とトイレ関係の6番、汚泥のエネルギー利用の7番、少数ですが農業利用の2番というようにラベリングして、「たくさんの項目に貢献しています!」とPRするにとどまっています。特に1番の貧困への貢献を挙げている例は見ない気がします。1番と17番へのつながりを考えることが大切なのですね。とても勉強になりました。 それから、よく相談を受ける議論ですが、会社経営とSDGsの関係はどう考えればよいですか。見山 経営学の観点で言うと、社会課題に対し何かしらの価値を提供してきたからこそ企業は存在してきま 第3種郵便物認可

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