(44)第1943号 令和3年5月18日(火)発行 モノを言える状態のことを指し、ミスを無くすことや、イノベーションを興す上で重要なファクターとして近年、関心を集めています。例えば、『ザ・グーグルウェイ グーグルを成功へ導いた型破りな戦略』(ベルナール・ジラール著、三角和代・山下理恵子訳、ゴマブックス発行)はベストセラーになっているのでご存じかもしれません。その中でグーグルが成功した大きな理由の第一として挙げているのが職場の「心理的安全性」という空気感です。これについては、欧米では1960年代から研究が進められており、組織論ではTeaming(チーミング)と言われる分野です。研究論文等をまとめた書籍等も読んでみると、自分自身の数々の反省や、ずばり思い当たる場面に居合わせた経験が多々ありました。もう少し、早く知っておけば良かったと感じていますので、その一端をお話しします。何でもモノを言える組織に ~当たり前が難しい~ 学習し続け、異分野と融合し、イノベーションを興す。こうした組織になるには心理的安全性は不可欠です。では心理的安全性があるとはどういう状態か。さきほど、少し触れましたが、組織階層的には低い地位にいる担当者(つまり組織の弱者)が、幹部を含めたメンバーに対しても、何でも自由にモノを言え、提案できるということ。さらには、自らの失敗を素直に言える状態です。そのような発言に対して職場は厳罰を与えることもなく、逆に「失敗から学習しなさい」と言えるような組織です。「失敗してもいいんだよ、挑戦しなさい。悪い情報ほど早く知らせなさい」と口で言うのは簡単です。私も何回も職場で聞いたセリフです。しかし、そのような状態、空気感をつくるのは実は容易ではないのです。心理的安全性が保たれていない典型的な例が会議です。「ふとアイデアを思いついたけど発言しようかな」「幹部の人が言っているのは少し問題点があるのではないか? 発言してみようか」などと感じることは誰でもあると思います。一方で、「もしかして的外れなアイデアで無知と思われないか? 偉い人の発言の問題点を指摘して空気を読まないと思われないか? 失礼ではないか?」「失敗を報告すると自分のイメージダウンにつながらないか?」と、こうした不安感から発言をやめてしまうこともあり得る光景です。私自身も国交省時代の会議などで、「発言しておけばよかったなあ」と、あとで反省する場面も、「若い職員はどうして発言しないんだろう? 元気ないなあ」と上から目線で考えてしまう場面もありました。第3種郵便物認可イラスト: 諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第21回】~安心して発言し、失敗から学ぶ組織づくり~「学習」や「融合」を可能とする組織とは 今回は「心理的安全性」というコンセプトを取り上げますが、まずはその経緯についてお話ししようと思います。 最近、自治体や企業の中期計画や経営計画について助言を求められることが多くなりました。洗練されたフレームワークを活用し、将来像からのバックキャスティングによる素晴らしい事業プランや組織体制の再編、DXによる効率化等、とても真剣に練り上げられているものが多くなってきていると思います。ただ、なんとなくリアリティーのないモヤモヤした感覚が残ります。「理由は何だろうか? プランの段階だから仕方ないのでは?」と考えていましたが、もしかしたら、その原因は推進する「主体」、すなわち職員の生き生きとした働く姿を実現するための仕組みが見えないからではないだろうか、と考えるようになりました。もちろん、対外的に公開するプランに書くようなことではないかもしれませんが、プランに付随する組織階層図を見ていても、知識の共有による創造性よりも「上から下への支配力」を感じてしまいます。 また、下水道事業は今、次の調和の前の混沌の中にいて、先行きが不透明な転換期にあります。これからのマネジメント時代には、標準化による効率性を目的としていた既存のマニュアル本は役に立たず、地域や急速な変化に応じて、職員が一丸となって学習し続け、最適な方法を探す必要があります。さらには、異業種といかに組むかがイノベーションのカギになっています。「学習意欲」や「異分野との融合」を可能とする組織はどうしたらつくれるのか。何が障害で、どのような職場の空気感により職員を包摂していくべきなのか。 このようなことを考えていたところ、たまたま「心理的安全性」というコンセプトに出会いました。簡単に言うと「心理的安全性」とは、チームの中で何でも心理的安全性加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授
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