第3種郵便物認可 第2004号 令和5年11月14日(火)発行(43)欧米における上下水道の事業者体の歴史的な流れ~再公営化の動向~(筆者作成)ス全体を運営することの効率性や単独企業による独占状態に疑問が投げかけられるようになりました。また、コレラの蔓延が社会問題になり、この早期解決の観点からも、上下水道事業はパブリックが責任を担うべきという論調が主流になりました。民から官への動きです。 この傾向は1900年代の半ばまで続きましたが、1970年代になると、冷戦の終結などもあり、新自由主義という新たな考え方が西側諸国を中心に台頭してきました。この考え方から、英国ではサッチャー首相による経済政策で上下水道事業は民間に売却されてしまい完全民営化となりました。経済効率性を重視したアメリカ的な商業主義と言えます。政府の介入は最低限にとどめ、できる限り民にやらせようというものですが、官から民への大きな揺り戻しと言ってよいと思います。 ただ、このときの民は1800年代前半の民とは違い、効率性や技術の面でも大きく進化しています。単純に官から民に戻ったわけではなく進化があることに注意が必要です。この官から民への動きの中で、フランスは政治のパワーも活用しながらコンセッションを広めました。一方、ドイツはどちらかというと電力などエネルギー分野の民間活用について力を入れた印象で、水はそれほど進みませんでした。実は、フランスに関しても現状を調べると、水道は70%、下水道で77%が公営を選択しています(残りがコンセッション)。 このことを考えると、水は電力・エネルギーと比べると、ローカリティーの強い事業であるがゆえに、経済効率性や商業主義的な考え方には馴染みにくいインフラなのかもしれません。効率性から考えると、水は電気などと異なり、重たくて単位重量あたりの価格は低いので、広域的な運搬には向いていないことも要因にあるかもしれません。そのため自然流下の流域単位に考えるのが、コスト的、エネルギー的にも効率的なわけですが。再公営化の背景に政治はあっても市民はなし? 続いて今回の本題の再公営化の実態についてです。再公営化した自治体の数ですが、フランスでは上下水道合わせて約170ヵ所にのぼっていますが、フランスの場合、母数である自治体の数が1万2000~5000と言われているので、割合としては決して大きな変動とは言えません。ただ、再公営化した約170ヵ所の中に、パリ市やボルドー市など、規模の大きな都市が含まれています。 では、なぜ再公営化が起こったのか。欧州では2007年に金融危機が起こり、それまでの商業主義に対する反省の風潮が強まりました。こうした背景から社会民主主義の考え方が支持を広げ、その1つの動きとして「水はみんなのもの、金持ちが独占する商品ではない、誰もがアクセスする権利がある」といった考え方が広がりました。この考え方によれば、商業主義や株主価
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