コンセプト下水道第39~40回
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(42)第2004号 令和5年11月14日(火)発行 第3種郵便物認可イラスト:諸富里子(環境コンセプトデザイナー)コンセプト下水道【第39回】「お酒」と「逆張り」 日々のくらしの中で、私たちは知らず知らずのうちに二項対立でものごとを考え、その差異から判断し行動しています。大と小、善と悪、美味しい・まずいなど。そして、優位なこと、良いとされることを選択するように教育が行われるわけです。 しかし、この一方で、二項対立で差異を考えるのは良くない、差異は極めていい加減なものとする考え方もあります。例えば、ある人物の評判や評価が「真面目・紳士」、または「柔軟な発想を持つ」のように肯定的であっても、「真面目・紳士」は「頑固で融通の利かないやつ」、「柔軟な発想」は「いい加減で軽いやつ」というように、全く違った言い方になることもあります。 このほか、わかりやすいのは「お酒」です。「酒飲みだから信頼できない」「酒は体に悪い」とされる一方、「お酒で飲みニケーション」「酒は百薬の長」などの言葉もあります。ものごとは良い面の裏側に必ず悪い面も併せ持っていることをさまざまなレトリックが教えてくれます。 ものごとの二面性を分析し、対立する面を統合する概念をつくるには、まずはあえて時流に乗っていないほう、劣位の側に立って分析する「逆張り」が有効との考え方があります。今回は日本の上下水道の今後の時流とされるPPPについて、その「逆張り」として、「日本とは逆に欧州等は再公営化」といわれる事象にあえて注目します。欧州等の「再公営化」とは何か 前述したように、日本では上下水道事業の官民連携(PPP)を強く推し進めようとしています。欧州等の歴史の流れや、日本の全国的なPPPの成否が明らかになる時期を考えても、おそらく30年くらいは、このままの動きが確実に続くでしょう。一方、こうした方向性に懐疑的なサイドの見方として、「欧州等では逆に上下水道事業の再公営化の潮流がある」との指摘があります。この欧州等の再公営化の動向に注目し、その原因は何だったのか、コンセッション等に何か問題があったのか、民から官に再公営化して改善効果や進化は本当にあったのか、などをリサーチ・クエスチョンとして海外の文献などを使って精力的に調べてみました。本稿では、その一部を紹介しながら、日本のPPPへの教訓などを考えてみたいと思います。 まず「再公営化」という言葉ですが、英語では通常、「Remunicipalization」と記されます。直訳すると市町村(Municipality)に戻す(Re-)という意味ですが、文献等でも定義は明確ではありません。我々の感覚からすると、再公営化と言われると、自治体の直営に戻すというイメージですが、もともとコンセッションを導入していた自治体が実質的に運営する権利を取り戻し、たとえば包括的民間委託に切り替えたというのが実態に近いです。 最も典型的なのは、再公営化の代表例とされるパリとベルリンのパターンです。パリの水道事業は、水メジャーが行っていたが市民の声で再公営化された、と言われますが、実際には、ヴェオリア、スエズ、そしてパリ市の3者が出資した組織による運営方式から、パリ市が100%出資した「オー・ド・パリ」という組織に一元化されたことを再公営化と言われています。市役所による、いわゆる「直営」になったわけではありません。ドイツのベルリンも同様で、一時、官と民が出資し合って上下水道事業を運営していましたが、その後、市が民間の出資分を買い戻し、単独で出資する組織に切り替えました(民が出資参加する前の姿に戻したわけです)。 これらの動きが典型的な「再公営化」と呼ばれる変化です。日本で言えば、官民出資会社から官100%の横浜ウォーターやクリアウォーターOSAKAのような組織に切り替わったイメージでしょうか。欧州の上下水道政策の歴史を振り返る ~水はローカリティー~ 近代下水道として日本より長い歴史がある欧州の上下水道事業の歴史を、事業主体の官と民の関係性に注目して振り返ってみたいと思います。 英国、フランス、ドイツの上下水道は、もともと1800年代の前半に電気やガスなども含めた地域サービスの一環として民間企業が始めたのが最初だと言われています。 ところが、1800年代の後半から、企業が地域サービ「振り子」とPPP~欧州の再公営化の実態と教訓~加藤 裕之東京大学 工学系研究科 都市工学専攻下水道システムイノベーション研究室 特任准教授

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