第3種郵便物認可 第1998号 令和5年7月25日(火)発行(31)の動向と日本の現状図3 下水サーベイランスで検知できる病原体等感染状態で排泄される―という特長も有しています。3.下水サーベイランスの歴史 下水サーベイランスは、新型コロナウイルスをきっかけに、急に始まったわけではありません。世界中で、約10年前から、ポリオウイルスやノロウイルスの感染状況の把握手段として、下水を用いた調査研究が実施されてきました。米国では、オピロイドという鎮痛作用を有する一方で中毒作用も高い物質による死亡が相次ぎ、社会問題となっています。そのオピロイド使用者の居場所の追跡に下水サーベイランスが活用されており、ビジネスになっています。そうした歴史の中、今回、新型コロナウイルスの発生直後から、世界中の研究者が一斉に下水サーベイランスに注目し、大きく、活用が広がりました。4. 下水サーベイランス、海外 現在、アメリカでは、1300箇所の下水処理施設で下水サーベイランスが実施されています。米国では、緊急事態が解除された今でも、その調査は、継続されることが決まっています。EUは、EU指令で、昨年、すべてのEU加盟国に下水サーベイランスの体制構築を義務化しました。現在、EU全体で、1400箇所の下水処理施設で下水サーベイランスが実施されています。昨年のドイツG7サミットの保健大臣会合では、下水サーベイランスの推進がG7国間で国際合意されました。その中で、いまだに下水サーベイランスを調査研究段階と称して、社会実装が遅れているのは、日本のみです。昨年、国の予算で、全国20共同体(参画地方公共団体数は26)で実証事業が行われました。その中で、学識経験者等適切なアドバイザーが的確に指導した札幌市、小松市、養父市等では、十分、下水サーベイランスを活用できる成果が出ています。いまや、日本においても、一刻も早い下水サーベイランスの社会実装が求められています。手法としては、札幌市・小松市・養父市の成功事例を水平展開すればよいのです。具体的には、全国のすべての都道府県で一箇所以上、全国で200箇所の下水処理施設で、週2~3回、採水・分析・解析し公表する、ことが期待されます。全国の大規模な下水処理施設200箇所を選べば、日本の全人口の50%以上をカバーできます。費用は、年間約20億円で、PCR検査費の100分の1以下です。 今年2月16日には、自由民主党政務調査会下水道・浄化槽対策特別委員会で下水サーベイランス推進の決議がなされています。5. 次なるパンデミックに備えて今こそ下水サーベイランスの全国体制構築を 下水サーベイランスは、今回の新型コロナウイルスだけに適用できるものではありません。インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ノロウイルス、サル痘ウイルス、薬剤耐性菌等、多くの病原性微生物等の把握ができます(図3参照)。さらに、変異株分析もできます。来るべき新たなパンデミックに備えるために、また、バイオテロ(生物テロ)などの国防の観点からも、今のタイミングで、早急に、我が国全土に、下水サーベイランス・モニタリング体制を構築すべきです。 札幌市、小松市、養父市の先行ス濃度も低く、下水サーベイランスで感染状況を把握するのが難しい時期がありました。しかし、2年半前に、世界最高レベルの精度を誇る分析法を北海道大学と塩野義製薬が共同で開発するなど、アカデミアの先生方の御尽力が実り、上記のような低い濃度の下水中ウイルス濃度の測定が可能となり、一気に我が国における下水サーベイランスの有効性がクローズアップされてきました。今は、下水処理施設に下水が入ってくる地域に、14万人あたり1日1人の新規報告感染者がいれば、検知できる精度になっています(この技術を開発した北海道大学の北島准教授は、昨年、すべての科学技術分野の論文被引用件数で世界トップレベルの高被引用研究者の一人に選ばれました)。 新型コロナウイルス感染症では、感染しても無症状者の方が多数います。病院に行かない方も増加してきています。そうした方も、多くは、便・尿等を通じ、感染したその日から、ウイルスを下水道へ排出します。このように、リアルな感染状況に近い正確な実態を早期に把握できるのが下水サーベイランスです。 この「下水サーベイランス」の特長は、先に述べた①地域のリアルな感染状況に近い実態を示している、②早期に感染状況を把握できる可能性が高い(感染者が、症状が出て病院に行き、検査をして、陽性という結果が出て報告・公表されるより、下水サーベイランスは、数日早く感染実態を把握できる可能性が高いです。5月8日以降の定点把握になりますと、下水サーベイランスは、一週間以上早く感染動向が把握でき、かつ、実態に近い傾向がわかると思われます)という特長だけではありません。他に、③集団レベルの検査のため、低コストで地域全体の感染動向を経済的に把握できる、④個人へのPCR検査のように被検者への身体的負担がない(非侵襲性と言います)、⑤個人を特定せず、匿名性が高く、感染者のプライバシーの問題が生じにくい、⑥新型コロナウイルスの場合、人体の消化管液中で急速に不活化され、主に非
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