下水道の散歩道 第34-63回
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イラスト:PIXTA下水道の散歩道1.はじめに 一般社団法人日本下水サーベイランス協会が昨年5月12日に設立され、副会長・企画委員長として、10ヵ月、活動してきました。この活動の中で、強烈な印象を受けたのは、「公共事業の世界・下水道事業の世界は、甘い、ぬるま湯、スピード感がない」ことでした。日本下水サーベイランス協会のメンバーの塩野義製薬、島津製作所等の異業種の方々と真剣勝負の付き合いをしてきて、痛感しました。先日、日本下水サーベイランス協会の会合で、隣に座った元日本下水道処理施設管理業協会会長で現在は日本下水サーベイランス協会の理事のHさんとの会話で、「感染症蔓延下、新型コロナ対策の薬の開発・実用化で世界としのぎを削る塩野義製薬さんと日々付き合っていると、下水道インフラの世界は、スピード感があまりにもないことを痛感しますね。すっかり、下水道界に染まり、他の世界のことを知らず、改革しなければとの切迫感がありません。スピード感がないという認識がありませんからね。下水道の殻から一歩も出ず、井の中の蛙ですね」との話が出ました。きつい言い方に思われるでしょうが、この10ヵ月間の実感として、私も、全く同感です。2.なぜ、公共事業界・下水道界はぬるま湯か[第60回](42)第1989号 令和5年3月21日(火)発行 下水道オンリーの世界からの脱却を―下水道の殻から抜け出し、スピード感を持って、施策展開を。併せて、「下水道」という名前から国民が受ける印象に謙虚に向き合うことが大切―第3種郵便物認可(一社)日本下水サーベイランス協会 副会長谷戸 善彦らの脱却、改革の方向性㈱NJS エグゼクティブ・アドバイザー(常任特別顧問)実に確保され、公共事業界に配分されます。売り上げが一気にゼロになるかもしれない民民で戦っている他の分野の企業と大きな差があります。その上、日本の国土交通省は(国土交通省出身の私が言うのも、憚られますが)、非常に面倒見がよく、設計・積算基準の改訂、単価の改訂、入札契約制度の状況に応じた改革、公共事業関係労働者への対応等、社会情勢の刻々の変化に対し、しっかり対応しています。官に、極めて丁寧に保護されているのです。ちなみに、先日、積算の基本となる、新年度令和5年度の労務単価が発表されましたが、全国全職種単純平均で、対前年度、5.2%アップです。アップは、11年連続です。 第二に、グローバルな戦いが日本国内では、ほとんどないことが挙げられます。1980年代、米国から、日本の建設市場の開放を迫られ、多くの門戸を開きましたが、実際には、海外の企業が、日本の公共事業に直接進出することは、ほとんどおこっていません。下請け、人材確保等の難しさ等からです。そのため、日本市場は、設計・施工・管理において、グローバルな戦場には全くなっていません。これが、他分野と比べ、生ぬるい一因です。3.下水道界の生ぬるい環境か 海外からの企業の進出もないので、今のままでよいか。決して、そうではありません。DX、GX、老朽化への対応等、下水道界の課題が山積の中、生産性を高めて、コスト削減の努力をスピード感を持っておこなっていかなければ、厳しい未来が待っていると思います。防衛費の拡充、感染症対策、 他の業界と比べ、なぜ、下水道界を含む公共事業界は、ぬるま湯か。一点は、民民の世界と、国民の税金を使っての事業の世界の違い、二点目は、グローバル競争の有無でしょう。 公共事業の世界は、毎年、国民・企業等からの税金による原資が確年金・社会保険関係費の自然増の中で、下水道予算は、今後、間違いなく厳しくなると思います。 改革の方向性として、次の二点を挙げたいと思います。 一点目は、下水道の関係者だけで構成された「下水道の殻」から抜け出すこと、二点目は、スピード感を持って、受け身でなく、先取り的に施策展開を行うこと、です。 具体的には、一点目としては、①異業種の方との仕事上での連携等を積極的にとり、異業種の方々と真剣に付き合い、良い点を積極的に導入する。②こうした中で、意識改革の必要性を理解する、ことが重要です。 二点目のスピード感を持って、先取り的に展開すべき施策としては、現時点で、以下があると考えています。ⅰ.来年4月からの水道行政・下水道行政の一元化は、国民に上下水道を理解いただき、連携による効果・生産性の向上をアピールする大きなチャンスと捉えるべきです。骨太の具体策を早急に提示すべきでしょう。後手後手になると、防御一辺倒になる恐れがあります。ⅱ.現時点で、スピード感を持って、早急に、国が施策展開を図るべきテーマ・視点として、ア.整備の進んだ下水道インフラストックの活用、イ.下水道インフラのマルチユース活用、ウ.コンセッション等、民間活力の活用、の三点を考えています。ア、イ、ウはともに、今後の国の財政状況の厳しさを考えての視点です。  ア.イ.ウ.として、具体的には a.下水サーベイランスの社会実装として全国の200ヵ所程度の下水処理場等でウイルス・細菌等の定期的モニタリングを実施、都市の危機管理情報を収集、解析、公表 b.下水汚泥の肥料活用推進 c.下水処理施設のシェルター等での空間利用、処理場敷地の国防・防災拠点利用 d.下水管路内の有効活用。例として、管路内に、水位・水量・水質・老朽度測定センサーの設置、電力線の占用、管路内汚水処理等があります e.下水そのものの熱利用 f.水処理槽での微生物燃料電

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