下水道の散歩道 第34-63回
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第3種郵便物認可 第1982号 令和4年11月29日(火)発行(35)水汚泥等のバイオ素材化②バイオコミュニティの形成、③バイオに関するデータ基盤の整備。 私は、大きな潮流の中で、世界を変えていくトランスフォーメーション(変革)は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、と併せて、BX(バイオ・トランスフォーメーション)だと考えています。とりわけ、下水道インフラ分野では、ダイレクトに深く、BXが関わると思います。2.BXの最前線は、「ゲノム編集を活用した合成生物学」「バイオリファイナリー」。これらは、未来社会のゲームチェンジャーとなる 前述のように、社会的要請と、技術開発の両面から、BXは、注目されています。地球温暖化対策としての「カーボンニュートラルへ向けての世界的要請」と、遺伝子工学の進化による「ゲノム解析・編集を活用した合成生物学」の急速な発展です。この中で、特に注目は、「合成生物学」を駆使した「バイオリファイナリー」です。 「バイオリファイナリー」とは、バイオマスを原料として、バイオ燃料や化学品を生産する技術や産業を意味し、再生可能資源や省エネルギーなバイオプロセスを利用することから、CO2排出量削減や、循環型社会の構築に貢献する技術として、大きな期待がかけられています。以前から、バイオマスを原料とした燃料や素材の製造はありましたが、大きく状況が違いますのは、ゲノム解析・ゲノム編集等遺伝子工学を使って、反応効率が数十倍・数百倍となる新しい微生物の発見・製作が可能となったことです。今後は、エタノール・ブタノール等の燃料系だけでなく、特に、高機能素材の製造、それも製品製造の起点(スタート)となる一次素材、石油化学産業の大本の「ナフサ」に代わる「バイオマスナフサ」の製造等が注目されます。バイオマスから「ナフサ」ができれば、あとの石油化学製品の製造工程、工場設備等を換えずに、従来と同じ製品が作れるからです。 また、現在は、バイオマス素材・バイオプラスチックとして、非可食性の植物が主に使われていますが、資源枯渇への対応や資源循環を考えると、下水汚泥・食物残渣のような「有機廃棄物・有機ゴミ」からの「バイオリファイナリー」を強く志向すべきと考えます。人間生活を囲む種々の素材は、20世紀初頭の第一次素材革命での石炭化学製品から、戦後の第二次素材革命での石油化学・ガス化学製品へと変わってきました。今、第三次素材革命が起ころうとしています。バイオ製品です。その中でも、今後は、「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」の観点からも、植物バイオ製品から、廃棄物リサイクルバイオ製品へと移行していくのが望ましいと思います。世界を素材から変えるのです。下水汚泥、食物残渣、ゴミ等は、バイオリファイナリーの原料として、非常に価値の高いものとなるでしょう。これらは、人間が生きている以上、必ず供給されるサステイナブルな原料である点も、大きなアドバンテージです。5~10年前と比べ、安全をも考慮したゲノム編集が手の届くところに来たこと、脱炭素の動きの中でコストファーストでなくなってきていることは、大きなプラス材料です。 こうした動きは、化学品の原素材を大きく換え、未来社会の「ゲームチェンジャー」になる可能性を秘めています。3.下水道インフラ界におけるBX……BXが下水道インフラを変える 下水道インフラ界において、BXの期待が大きいのは、次の5分野です。(1) バイオリファイナリー……下 特に、下水汚泥等のバイオリファイナリーに期待したいと思います。下水および下水汚泥は、毎日、コンスタントに、未来永劫、人間が生存している限り、原材料として、供給されます。さらに、同じ廃棄物のゴミ・食物残渣・家畜糞尿等と比べて、エネルギーを使って集める必要がなく、放っておいても、日本の人口の80%の下水が下水処理場に毎日一定量集まってくる素晴らしい特性があります。今後のカーボンニュートラル・資源エネルギー循環に向けて、バイオリファイナリーの貴重な原材料です。今後、最適のバイオリファイナリーを考えた時の水処理・汚泥処理の在り方の研究と実践が必須です。また、バイオマスとしての有機物確保の観点から、処理区特性等を勘案しての単体ディスポーザの解禁、水処理・汚泥処理の広域化・共同化等、下水処理の仕組み・プロセスそのものの見直しが必要でしょう。 バイオ素材としては、先述のように、恒久的な活用や汎用性等を考えると、一次素材である「バイオマスナフサ」等の製造が望ましいと考えます。かつてのような下水汚泥から作ったレンガ・ブロック等の発想からは、一歩踏み出すべきです。これが可能となる微生物の発見・製造は、現在の技術をもってすれば、可能性は大きいと考えています。処理場ごとに最適な微生物相は異なるでしょう。壮大な微生物探し・微生物製造が予想されますが、私は、量子コンピュータの実用化・進化により、バイオ新薬製造と同じように、いともたやすく可能となる時期が早晩来ると考えています。 下水・下水汚泥等のバイオマスから、ゲノム解析・編集等を用いた革新的バイオ技術で何を作るかを考える時、汎用性ともう一つの観点は、原材料のバイオマスの単位体積当たりあるいは単位重量当たりの、製造される物質の価格・価値です。一般的には、燃料よりは、高付加価値素材の価値は高く、さらに、医薬品の価値は高くなります。下水汚泥等から医薬品を作り出すことができたら、素晴らし

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