下水道の散歩道1.「エンゲージメント」とは 企業マネジメント・人事マネジメントの分野で、今、世界的に、「エンゲージメント」が注目されています。 2022年6月7日に閣議決定された、日本政府の最高政策基本方針である「骨太の方針2022(経済財政運営と改革の基本方針2022)」の本文記述の中に、毎年度発表される「骨太の方針」として初めて、「エンゲージメント」が登場しました。 「エンゲージメント(engagement)」とは、もともと、1990年に、ボストン大学のカーン教授が提唱した概念で、もっぱら、「従業員の会社に対する愛着心や思い入れ」といった意味で認識されてきました。最近、企業マネジメント・人事マネジメントの分野で、「企業・組織の成長・進化は、『エンゲージメント』にかかっている」と謳われ、注目される中、現在は、「個人(従業員)と組織(企業等)が信頼のもとに一体となり、同じ方向(ビジョン)を目指し、双方の成長に貢献しあう関係」と、個人(従業員)と組織(企業等)、双方向の関係として、定義されています。従業員の側からは、自主的な、「仕事への熱意」「組織への愛着」「職務への満足感」など、企業の側からは、「従業員への信頼」「従業員の成長への支援」等で、双方向の信頼・貢献がキー(鍵)です。「エンゲージメント」には、「婚約」の意味があります。まさに、「従業員と企業の婚約、そして相互に信頼・期待感を持った結婚生活」が従業員・企業の成長・進化の「要かなめ」との考え方です。[第57回]図1 エンゲージメント(34)第1977号 令和4年9月20日(火)発行 第3種郵便物認可(一社)日本下水サーベイランス協会 副会長谷戸 善彦エンゲージメント ―企業・組織の成長・進化は、「エンゲージメント」にかかっている―㈱NJS エグゼクティブ・アドバイザー(常任特別顧問)イラスト:PIXTA 「エンゲージメント」が注目される背景には、昨今の①人財の重要性の認識、②人材の流動化―があります。「骨太の方針2022」で取り上げられたのも、岸田総理の言う「新しい資本主義」に向けての5つの重点投資分野の第一に「人への投資」が挙げられたからです。「骨太の方針2022」では、「人的資本投資の取組とともに、働く人のエンゲージメントと生産性を高めていくことを目指して働き方改革を進め、働く人の個々のニーズに基づいて多様な働き方を選択でき、活躍できる環境の整備に取り組む」とされています。 「エンゲージメント」における従業員と企業の関係は、図1のとおりです。両者は双方向の信頼・貢献からなっており、対等な関係です。「エンゲージメント」に似た概念に、「従業員満足度」と「ロイヤルティー(忠誠度)」があります。それぞれ、従業員と企業は、図2、図3の関係にあり、「エンゲージメント」における関係とは、異なります。ロイヤルティー(忠誠度)は、従業員が企業に対して、忠誠心を持って行動するという上下の関係にあります。従業員満足度は、企業の処遇や環境に対する従業員の評価で、企業側の取組に応じて、満足度が変わり、他企業でより処遇が良いところがあれば、従業員は逃げていく可能性があります。それに対し、「エンゲージメント」図2 従業員満足度図3 ロイヤルティー(忠誠度)は、従業員と企業が双方向の関与によって結びつきを強めていく点が大きく異なっています。2. 「エンゲージメント」がもたらすメリット、「エンゲージメント」を高めるポイント 「エンゲージメント」がもたらすメリットとしては、ア.組織の活性化、イ.従業員のモチベーション向上、ウ.生産性向上、エ.従業員の定着率向上―があります。『人事白書2019』によりますと、「エンゲージメントが高まったことで得られた効果」で、最も多いのは、「組織の活性化」で、以下、「従業員のモチベーション向上」「企業の業績の向上」「従業員の定着率向上」「組織内での情報の共有の強化」が挙がっています。 「エンゲージメント」を高めるポイントとしては、ⅰ.企業のビジョンへの共感、ⅱ.仕事のやりがいの創出、ⅲ.働きやすい環境づくり、ⅳ.従業員の成長支援―等があると考えます。 なお、従業員と企業間の「エンゲージメント」の状態を数値化し、現状を把握するためには、「エンゲージメントサーベイ」が行われますが、その手法の開発・進化も進んでいます。
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