下水道の散歩道 第34-63回
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(36)第1964号 令和4年3月22日(火)発行 第3種郵便物認可3. 日本国のマテリアリティー(重要課題)と下水道インフラ3-1.防衛と下水道インフラ 「国の防衛と下水道インフラ」に関し、下水道インフラの貢献として、私は、「有事に備えての防空壕としての下水道インフラ地下空間の活用」とそれを拡充した「処理場等の国防避難拠点化」を考えています。 今回のロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、ミサイル対応・核対応等を考えるとき、日本全土で、緊急に地下防空壕の確保を検討すべき状況にきていると思います。その際、緊急性・コスト面より、まずは、既存施設の防空壕活用を第一に考えるべきでしょう。候補として、地下街・地下道・地下鉄・大規模ビルの地下空間等が浮かびますが、その存在は、大中都市に偏っており、公的施設は少なく、ストック量も多くありません。地方などでは、地下空間がほぼない市町村もあるでしょう。 こうした中、全国に2200ヵ所8400haの処理場、3700ヵ所のポンプ場、49万キロの管路延長を持ち、それぞれの施設において、大きな「地下空間」を持つ「下水道インフラ」の防空壕活用は、極めて有効です。下水は、重力による自然流下で地下深く流下するため、3-2.コロナ対策と下水道インフラ この二年間のコロナ禍を通じて、上下水道は人の生命と安全を疫病から守る「防疫インフラ」であることが改めて認識されました。もし、我が国で上下水道インフラがこれほどまで整備されていなければ、新型コロナウイルスによる重症者数等は、もっと多かったでしょう。それに加え、コロナ禍で、下水中の新型コロナウイルスRNA濃度の定期的・継続的分析により、新型コロナウイルス感染症の発生・蔓延・終息の検知や流行の傾向把握が可能となり、下水道インフラが都市の危険度・安全度を示す「情報インフラ」となることがわかりました。こうした「下水サーベイランス」の有効性の確認を受け、自治体・民間企業で、さらなる実証、社会的実装への動きが加速しています。3-3.脱炭素化・国土強靭化・子育てと下水道インフラます。また、今世紀末までに慢性的な水不足に陥る人口が世界全体の人口の半数にあたる最大40億人となる可能性があると警鐘を鳴らしています。④の国土強靭化は、頻発・激甚化する水害への対処、地震・大規模火山爆発等への対応です。これらは、すべて、国民の生命を守り、国民の安全を確保する政策です。下水道インフラの処理場・ポンプ場は、地下深くまで掘削して建設されているケースが多く、地下に広い空間を有しています。特に、処理場は、機械の収容空間の他、配管類をまとめて通す「管廊」が地下に設置されているところも多く、広い地下空間があります。特に都道府県が建設・管理する大規模な下水道で、42都道府県に約170ヵ所存在する流域下水道の処理場は、敷地も広く、管廊等地下空間の広いところも多く、防空壕として最適です。道路・河川・港湾・公園・電気・水道等の社会インフラの中で、我が国の地面の下で人間が避難できる容積が一番大きいインフラは、下水道インフラだと思います。有事に備える自治体のBCP計画の中で、地下防空壕施設として、処理場・ポンプ場を中心とした既存の下水道インフラ施設を位置づけ、対応を始める時期に来ていると考えます。 さらに、流域下水道のような大規模で敷地も広い下水処理場では、敷地(土地)と処理水(水)が確保できる利点を生かし、すでに完備している自家発電施設(大部分の処理場には自家発電設備があります)に加え、脱炭素化対応も兼ね、太陽光発電・風力発電・小水力発電施設と蓄電施設を敷地内に設置し、生活用水用に処理水の一部超高度処理化を図り、また、地下避難空間を拡充し、緊急時に、水と電気が長期間確保できる「大規模国防避難拠点施設」とすることを考えるべきと思います。全国170ヵ所の流域下水道処理場と、政令市・県庁所在地の公共下水道処理場がその候補です。 他のマテリアリティーである「脱炭素化」「国土強靭化」「子育て」に関しましても、他の社会インフラと比べ、下水道インフラは、国の重要政策に深く関わっています。下水道インフラは、他の社会インフラと違い、下水汚泥からの消化ガス発電・燃料化等、自ら、エネルギーを産み出す「創エネルギーインフラ」です。また、国土強靭化関係では、頻発・激甚化する水害への対応において、下水道雨水対策(内水対策)は、喫緊の課題です。子育て対応においては、現在検討中の「破砕した紙おむつの下水道投入」について、成果が待たれるところです(マイクロプラスチックを出さない紙おむつの開発・普及とセットでの下水道投入

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