下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.はじめに[第54回]第3種郵便物認可 第1964号 令和4年3月22日(火)発行(35)日本の現下のマテリアリティー(重要課題)と下水道インフラ ―国民の生命を守る:「防衛」「コロナ」「脱炭素化」「国土強靭化」― 2022年2月24日、ロシアは、ウクライナに侵攻を開始しました。第二次世界大戦後77年ぶりといってもよい本格的な侵略戦争です(侵略戦争としては、1990年のイラクのクウェート侵攻もありましたが、イラクは6時間でクウェート全土を占領しました)。外交努力で戦争は回避できるのではないかと予想・期待していた世界中の人々に大きな衝撃を与えました。戦力で分が悪いウクライナの人たちが自国のみで必死に戦っている状況を見て、「明日は我が身かもしれない」という恐怖を感じた日本人も決して少なくなかったのではないでしょうか。米国との国家安全保障の傘の中で自国独自での防衛について、真剣に考えてこなかった日本にとって、劇的な意識変化を突きつけられる出来事でした。中国、ロシア、北朝鮮に地理的に近く、台湾もすぐ隣に存在しています。状況によるでしょうが、いざというときの米国等の対応はどうなるのか。2022年2月24日を境に、日本政府の国としてのマテリアリティー(重要課題)とそのプライオリティー(優先順位)は、大きく変わることとなりました。2. 日本国政府の現下のマテリアリティー(重要課題)イラスト:PIXTA 毎年の日本政府の重要政策方針を打ち出す場は、ここ何年かは、初夏に閣議決定される「骨太の方針」です。昨年は、6月18日に、「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)」として、閣議決定されました。今年は、夏に参議院議員選挙があるため、いつもの年より、一ヵ月程度早く、「骨太の方針」が発出されるのではないかと言われています。 昨年6月の「骨太の方針」の柱は、「新型コロナウイルス感染症の克服」と「次なる時代をリードする新たな成長の源泉としての以下の4本柱(4つの原動力)」でした。 ① グリーン社会(脱炭素化)の ② 官民挙げたデジタル化の加速(DX:デジタルトランスフォーメーション) ③ 新たな地方創生(新型コロナとリモート勤務を契機とした地方移住・二地域居住等に対応した地方創生等)の展開と分散型国づくり ④ 少子化の克服、子供を産み育 今年の夏の「骨太の方針」では、実現てやすい社会の実現ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、日本政府の最重要課題MIM(Most Important Materiality)は、「国民の生命を守る防衛」になるでしょう。2022年の「骨太の方針」は、①防衛、②新型コロナ等感染症対策、③脱炭素化、➃国土強靭化、⑤子育て、の順位になるのではないでしょうか。すべて、国民の命を守り、日本を守り維持していく政策です。国民の生命・安全を守ることが第一という考え方へのシフトです。そのあとに、⑥DX、⑦新たな地方創生、と続くでしょう。DXは、優先順位が下がったというわけではなく、優先順位上位の防衛・コロナ対策・脱炭素化(地球温暖化対策)・国土強靭化・子育て等の政策推進にあたって、手段として、デジタル化・ICT化を徹底的に進めることだと考えます。DX化は、それ自身が目的ではなく、手段の部分が多いと思います。⑦の地方創生も、国土防衛、国民の生命を守るという観点を踏まえての居住地の在り方の問題も含んだ概念となりましょう。 ③の脱炭素化に関しては、2050年に向けて、地球温暖化対策を怠れば、確実に国民の生命を脅かす時代がやってくると思います。おりしも、2月28日にIPCC(国連気候変動政府間パネル)の中で「気候変動による人的被害などの影響と対応策」をまとめる第2作業部会が8年ぶりの報告書を公表しました。その中で、はっきりと、「人為的な気候変動が自然や人々に広く悪影響と損失・損害を与えている」と断言し、「地球温暖化対策を人類が早急に打たなければ、今世紀末にかけ、気候変動は自然と人間のシステムにおびただしいリスクをもたらす」と強く警告してい
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