下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.はじめに[第53回](38)第1962号 令和4年2月22日(火)発行 第3種郵便物認可組織における非財務情報の重要性―注目すべきは、「人的資本」と「将来を見据えた技術開発」――企業会計の自治体の下水道経営も同じ― 2021年11月12日、経済産業省が「非財務情報の開示指針研究会中間報告」を公表しました。ステークホルダー資本主義(従来の株主のみを意識して経営する株主資本主義から脱却して、株主の他、社員・顧客・取引関係者・就職希望者・近隣住民・地域・地球など多くのステークホルダー(利害関係者)の利益を意識して経営を行う考え方)が主流の経営理念となるなか、投資家等多様なステークホルダーに対して開示する企業情報の中で、従来、最も重視され、唯一の開示情報でもあった「財務情報(財務諸表等)」に加え、「非財務情報」の開示の重要性が世界的に高まっています。 その中で、経済産業省が2021年6月に立ち上げたのが、「非財務情報の開示指針研究会」です。非財務情報には、サステナビリティー(SDGs)関連情報、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報、経営者自身の自己分析による経営情報(MD&A)、人的資本情報、脱炭素等気候変動への対応情報、社会的貢献活動情報、デジタルトランスフォーメーションへの対応情報、BCP策定情報、未来を見据えたイノベーション技術開発情報、コンプライアンス対応情報等があります。いずれも、企業を評価するに2.経済産業省中間報告の内容3.「非財務情報」の中でも、「人的資本」と「将来を見据えた技術開発」に注目イラスト:PIXTAあたり、大変重要な情報ばかりです。従来の「財務諸表」の中でも、費用として、資産として、一部は計上されますが、それでは、読み取れないものが大部分です。 こうした「非財務情報」は、一部の大企業では、「統合報告書」を別途作成したり、「有価証券報告書」の中に、書き加えたりしてきましたが、ここにきて、世界的に、「非財務情報」を積極的に開示する動きが出てきています。 経済産業省の「非財務情報の開示指針研究会中間報告」の骨子は、以下です。① サステナビリティー関連情報開示を実現するために作成者・利用者が意識する必要のあるポイントを提示。例えば、ステークホルダーとの「対話」につながるサステナビリティー関連情報開示の実施等を提案しています。② 国際的に重要性が高まっている「非財務情報」である気候変動関連情報、人的資本情報について、ポイントを提示。例えば、気候変動関連情報について、今後、欧州等中心に国際基準が制定され、一方的に一律の開示を求められることが考えられるが、日本の各企業は、各企業のマテリアリティー(重要課題)が違うことを意識し、対応すべきことを認識しておく必要がある等です。③ 非財務情報の中の「国際的なサステナビリティー関連情報」の開示基準策定の動きが世界的に加速する中、日本の考え方や問題意識を研究会の議論を基に発信し、基準設定に日本が関与していくことが重要。このことは、有価証券等の投資がグローバル化している中、日本経済にとって、大変重要な取り組みです。 上で述べた多くの「非財務情報」の中でも、私は、「人的資本」と「将来を見据えた技術開発」の2点に注目しています。(1) 「人的資本」について。特に、「組織の人材育成とワークエンゲージメント」に注目 投資家だけでなく、一般国民、就職先を考える学生さん等による企業の評価にあたり、「人的資本」に係る情報は、非常に重要なものです。自社の人材や人材戦略がどのように経営戦略の実現や持続的な企業価値の向上につながるのか、それについての説得力のある情報開示が求められています。米国では、すでに、2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対して、人的資本に関する情報の開示を義務付けました。具体的には、事業を経営する上で重視する人的資本の施策等について、開示を求めています。英国財務報告評議会(FRC)も、2020年1月、従業員エンゲージメント(従業員の企業への理解や貢献の意欲)や研修・能力開発の施策、人的資本が組織にどのような価値を生み出すか等について、開示を求めています。日本政府も、内閣官房に
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