下水道の散歩道 第34-63回
43/81

下水道の散歩道1.はじめに 2021年も、年末を迎えました。我が国においては、新型コロナ新規感染者数は、大きく減少し、一旦、新型コロナのパンデミックが収まるかの様相です。新たな変異株オミクロン株が確認され、年明け以降の動きは、予断を許しませんが、このタイミングで、新型コロナの日本第一号の患者が報告された2020年1月から、2021年12月までの2年間の下水道インフラ界を総括し、2022年以降の方向性・戦略を考えてみたいと思います。2.2020・2021年、新型コロナ下2年間の下水道インフラ界のアウトカム(成果・結果)[第51回]第3種郵便物認可 第1958号 令和3年12月14日(火)発行(33)2020・2021年、新型コロナ下2年間の下水道インフラ界を総括し、2022年以降の方向性・戦略を考える ―2年間のアウトカム(成果・結果)と今後の下水道インフラ政策・戦略―㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦 新型コロナパンデミックにより、我が国の経済・社会・生活は、大きな影響を受けました。主に、負の影響です。しかし、下水道インフラ界は、もちろん負の影響もありましたが、その度合いは小さく、むしろ、ポジティブな影響・評価のほうが大きかったのではないでしょうか。新型コロナ下2年間の下水道インフラ界のアウトカム(成果・結果)として、私は、次の5点を挙げたいと思います。4点目、5点目は、直接的には、新型コロナ関連ではありませんが、この2年間は、「新型コロナ対策」と「地球温暖化対応への大転換」の時期でした。この観点から、2年間の総括として、次の5点を選択しました。① 下水道インフラは、人の命を衛る「衛生インフラ」であると改めて評価されるイラスト:PIXTA② 下水疫学(WBE)の有効性評価が確立。下水道インフラは「都市の情報インフラ」に③ オンライン活用による新たな住まい方・働き方の広がりの中で、地方における下水道インフラストックの活用が今後、重要視点に④ 脱炭素の大きな流れの中で、資源・エネルギーを創出する下水道インフラが注目される。下水道処理施設の土地有効活用も今後の目玉に⑤ 地球温暖化起因の気候変動による水害の頻発化・激化の中、都市内水対策としての下水道インフラの重要性の認識高まる ①については、もし、日本の上水道・下水道の整備がこれほど進んでいなければ、新型コロナの死者数等はもっと多くなっていたでしょう。蔓延防止対策としての手洗い・うがいの励行も、そのための衛生的な水の確保としての上水道の整備と、洗った後、衛生的に流せる下水道の完備があってこそです。また、まちの衛生的環境確保として、整備済の下水道が大きく貢献しました。下水道インフラは、他の社会インフラよりもっと大切な、人の命を衛る「衛生インフラ」であることを多くの国民が認識しました。土木学会の新型コロナの緊急声明では、下水道インフラについて、次のように述べています。 「上下水道・廃棄物管理などの衛生事業は、感染症流行時においては、衛生的安全確保を担う重要なインフラである。今回の経験を踏まえ、機械学習等を活用した自動化や省力化を加速して、感染症流行時においても、サービスを持続的に継続できる強固な運営体制を維持・再構築する必要がある」「下水道は、COVID-19だけでなく、将来に備えて、未知の感染症に対して強靭な社会を構築するために重要なインフラである。下水中の新型コロナウイルスを含む病原微生物の監視により、地域や集団における感染者の存在を大規模な医療検査を行うことなく、把握できる」(公益社団法人土木学会、『COVID-19 災禍を踏まえた社会とインフラの転換に関する第2次声明』、2021年5月24日) ②は、下水中の新型コロナウイルスのRNAの分析により、コロナの発生検知・蔓延予測・終息判断が科学的に高い確率で行えることが立証されました。最近では、今後の新しいウイルスにも活用できるだけでなく、毎年のように発生する呼吸器系感染症の「インフルエンザ」の蔓延予測にも活用できることがわかってきました(我が国で開発された高感度の分析法により、消化管経由でのわずかなインフルエンザウイルスの下水道への排出に加え、感染者のうがいの排水や下水管に入ってきた痰・つばの中のウイルスを把握できるようになってきています)。金沢大・本多先生、高知大・井原先生、北大・北島先生、富山県立大・端先生等、日本の中堅・若手研究者のこの分野での活躍は目を見張るものがあります。また、最近の研究の中では、11月に土木学会研究フォーラムで賞を受けた滋賀県立大学の平山奈央子先生の「下水疫学調査の結果等を踏まえての感染拡大予測情報の発表を聞けば、外出抑制等自らで感染防止行動をとる人が多くなる」というアンケート結果は、注目です。現在のように感染者が少なくなっている中、継続的・定期的に下水疫学調査を下水処理施設等で実施し、RNAの分析でコロナウイルスが発見されれば、それを公表するだけでも、蔓延防止効果が得られる可能性があり、画期的な研究成果です。下水疫学調査に関し、土木学会の緊急声明でも、次のように記されています。 「下水道に、地域の感染症流行情報の収集拠点の一つとしての新た

元のページ  ../index.html#43

このブックを見る