下水道の散歩道 第34-63回
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下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.「北極星」 「下水道の散歩道」の連載も、4年が過ぎ、5年目のクールに入りました。読者の皆様には、ご愛読いただき、感謝しています。 「あなたは、自分自身の『北極星』を持っていますか」「あなたの『北極星』は何ですか」と、聞かれたことはありませんか。私は、「北極星」という言葉が好きで、かなり以前から今日まで、匿名で執筆する随筆・提言等で、ペンネームとして、「北極星」を使っています。「ぶれない」という点が気に入って、自分の「北極星(生涯目標)」を意識しながら、現在まで、仕事をしてきました。ただ、「ぶれない」ということは、頑固であることで、私自身、頑固ゆえに多くの人に迷惑をかけてきたと、反省しています。 ビジネスの社会で、「サステナビリティー経営」が注目されています。「サステナビリティー経営」とは、「環境・社会」の持続可能性に対応しながら事業のサステナビリティーの向上を図る経営です。その「サステナビリティー経営」の長期的な究極の到達点・目標として、「北極星」という概念が注目されています。ビジネスにおける、特に「サステナビリティー経営」における「北極星」とは何か。それは、「これまで自分たちが生み出してきた外部不経済の過去のツケ(例えば企業としての廃棄物・CO2の排出等)を払い、外部不経済の原因を断ち切ることによって未来のリスクを低減し、環境・社会と共存しながら成長を続ける新しい企業のゴール(在り方)」です。現在、世界の先進企業の多くが、この長期目標である企業の「北極星」を掲げ、未来志向型の「サステナビリティー経営」を目指しています。[第49回](38)第1954号 令和3年10月19日(火)発行 第3種郵便物認可下水道インフラの「北極星」を目指して―「ステークホルダー資本主義・サステナビリティー経営」と企業経営・下水道経営―イラスト:PIXTA 「サステナビリティー経営」を目指すにあたり、ぶれない究極の企業目標・企業理念である「北極星」を見つけ、それを目指すことが重要です。世界の状況・外的状況は刻々と変化しています。ぶれない「北極星」を確定し、不変の目標の「北極星」に向け、刻々と外的状況が変わっていく中で、「北極星」に到達するための手段や道のりを柔軟に変えて対応していく、こうしたプロセスが重要となっています。2.「ステークホルダー資本主義」 ここ数十年、「企業は株主のために存在する」という「株主資本主義」が、欧米を中心に跋ばっ扈こしてきましたが、ここにきて、世界的に、「ステークホルダー資本主義」が注目されています。「ステークホルダー資本主義」とは、「企業に影響するすべてのステークホルダー(利害関係者)との関係を重視し、企業活動を通してこれらステークホルダーへの貢献を目指す長期的な視点に立った企業経営の在り方」です。 「ステークホルダー資本主義」が提唱されたのは、米国の主要企業のCEOが名を連ねる経営団体BRT(ビジネスラウンドテーブル)が2019年8月に発表した声明でした。声明には、「お客様、従業員、サプライヤー、地域社会、株主など、すべてのステークホルダーの利益のために、会社を導くべきである」と明記され、アップルのクックCEOなど米国の主要経営者181名が署名、世界経済に衝撃を与えました。 これらの流れを受け、2020年1月に開催されたWEF(世界経済フォーラム)のダボス会議は、「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界(ステークホルダー資本主義への転換)」を主要テーマとして開催され、WEFの行動指針を示した1973年の「ダボス・マニフェスト」が「ダボス・マニフェスト2020」として改訂され、「収益の最大化だけでなく、官民連携や市民社会との協力を通じ、企業が持つ能力とリソースを注ぐことで、よりサステナブルで結束した世界を築く」との方向性が示されました。3.「サステナビリティー経営」 2015年9月に、国連サミットでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択され、同年12月に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)でパリ協定が合意されて以降、世界の企業において本格的にサステナビリティーが意識されるようになり、「サステナビリティー経営」が議論されるようになりました。この場合の「サステナビリティー経営」とは、先述のように、「環境・社会・経済の持続可能性への配慮により、事業のサステナビリティー(持続可能性)向上を図る経営」です。2030年を目標年とするSDGsの影響が大きい中、企業が長期にわたり、生き残るには、サステナビリティーの観点を経営に取り込む必要があるという認識の浸透によるものでした。その中における2020年10月26日の、菅総理の所信表明演説における「2050年カーボンニュートラル宣言」、この影響は、強烈で、日本政府、企業は、真剣に、「具体的な真のサステナビリティー経営とは何か」を追求し、実践に向けて本格的に準備することとなりました。こうして今、「具体的・実務的なサステナビリティー経営」への改革の動きが加速しています。SX(サステナビリティー・トランスフォーメーション)です。 「真のサステナビリティー経営」を一言で定義すると、「長期で利益を出し続けるために、リソース配分を行う経営」です。「長期で利益を出し続ける」ために、必要な要素は3つあると言われています。①その企業が長期にわたって市場から求められ続けること、②供給(原材料、知財、人材等)を長期的に維持すること、③社会から信頼され続けること、です。 「具体的なサステナビリティー経営」を実践するためには、「環境」・「社会」と「経済」の関係・構造の

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