下水道の散歩道 第34-63回
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下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.今、「OneHealth(ワンヘルス)」に注目2.「OneHealth」の系譜[第47回](36)第1950号 令和3年8月24日(火)発行 第3種郵便物認可「OneHealth(ワンヘルス)」―地球のサステナビリティー(持続可能性)の 確保のためには、「脱炭素」だけでは十分でない― 新型コロナウイルスが猛威を振るう中、WWF(世界自然保護基金)が提唱する「One Health(ワンヘルス)」の考え方が、注目されています。「One Health」とは、「ヒト」「動物」「環境」の三者を一体として、その健康を健全に保持することが、サステナブルに地球を守る重要なポイントであるという考え方です(次ページの図参照)。三者のすべてが同じように健康であることが大切という考え方です。コウモリ・ネズミ等に起因する動物由来の感染症は、環境の変化と密接な関係にあり、三者を一体として保全することが、サステナブルな地球の存続には必須との考え方です。いま、地球のサステナビリティーの確保のために、「脱炭素」のみが、大きく注目されていますが、私は、「脱炭素」と併せて、この「One Health」も等しく重要と考えています。 「One Health」は、2004年9月にニューヨークのロックフェラー大学において開催された国際シンポジウム「ワンワールド・ワンヘルス―グローバル化した世界の健3.NJSのスローガンイラスト:PIXTA康に学際的な橋を架ける」の中で、初めて提唱された概念です。この会議で、12の行動計画からなる「マンハッタン原則」が決議されました。この原則の第一項目は、次のように記されています。 「ヒト、家畜そして野生生物の健康は繋がっていること、感染症の脅威は、人々、食料供給そして経済と関連していること、そして私たちが求める健全な環境と機能している生態系の維持のために生物多様性が必須であること、を認識しなければいけない」 すなわち、感染症発生の原因となる自然環境・生態系の健康と、病原体を保有し運ぶ家畜や野生生物の健康、そしてヒトの健康の「3つの健康」を同じく健全なものとしなければ、頻発するようになった動物由来感染症の予防はできないとの考え方が、世界共通の認識となったのです。 このように、「One Health」は、20世紀後半からの、エボラ出血熱(1976年)、ニパウイルス感染症(1998年)、SARS(2002年)等、動物由来感染症の頻発を受けて、提唱された概念で、COVID-19のパンデミックに襲われている今日、当面続くであろうウィズコロナ時代を生き抜く考え方として、注目すべきタイムリーな概念です。しかし、「One Health」は、それにとどまらず、感染症との関連を超えても、今後の地球のサステナビリティー確保に向けてのターゲット的考え方として、「脱炭素」と並び、必須の極めて重要なキーワードと、私は考えています。 こうした中、福岡県は、独自に、2021年1月5日、「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を公布、施行しました。その中で、以下の6つの主要課題を掲げ、取り組みを開始しました。素晴らしい挑戦だと思います。①人獣共通感染症対策、②薬剤耐性菌対策、③環境保護、④人と動物の共生社会づくり、⑤健康づくり、⑥環境と人と動物のより良い関係づくり NJSでは、先般、村上社長のもと、2030年SDGs目標年、2050年カーボンニュートラル目標年に向けて、持続可能な社会・環境への取り組みを加速すべく、新たなスローガンを掲げました。それは、「水と環境の技術で未来を拓く」です。NJSは、今年で70周年を迎える日本で最も長い歴史を持つ「水と環境の専門集団」として、地域の水問題・環境問題に対応するだけでなく、逼迫する地球環境の問題に果敢に取り組み、貢献していく所存です。その地球環境問題に対応した主要課題として、「脱炭素」と「自然環境との共生」を掲げました。「カーボンニュートラル(脱炭素)」と「One Health(自然環境との共生)」です。従来の上下水道分野での両課題への取り組み

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