下水道の散歩道 第34-63回
3/81

下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.はじめに 「下水道の散歩道」の連載の第1回に、「BHAG(ビーハグ)とイノベーション」と題して、BHAGの話をさせていただきました。BHAGは、「Big Hairy Audacious Goals」の略で、直訳すると、「大きく困難で大胆な目標」です。「達成がなかなか困難で一見向こう見ずなように見えるが、しかし大胆でびっくりするような、わくわくする目標」・「人の心に訴え、人の心を動かす明確な目標」とも言われています。ドラッカーの後継者と言われる経営学者のジム・コリンズが経営学の名著「ビジョナリー・カンパニー」で唱えた経営の方向付けに関する考え方で、グローバルに浸透した経営用語です。 BHAGとは、①明確で人々の意欲を引き出し、②組織に勢いをもたらし、③組織がそれを達成することに極めて固い意志を持つ——目標です。歴史上有名なBHAGとしては、1961年にジョン・F.ケネディ大統領が宣言した「我々アメリカは、1970年代中に月へ人を送り、無事帰還させる」やソニーが1950年代の設立間もない時期に掲げた「低品質という海外での日本製品のイメージを変える。その具体的な製品として、ポケッタブル・トランジスター・ラジオを開発する」があります。 新型コロナウイルスパンデミックによって、世界中で、人間の価値観・生き方に関する基本的考え方が一変しました。コロナエフェクト(影響)は、経済・社会・行政・政治・教育等あらゆる分野に波及しています。 この変化は、一過性ではなく、恒久的な変化になるでしょう。コロナを意識、与件としながらの生き方になります。この「AFTER/WITHコロナ時代」のスタートに[第35回](30)第1925号 令和2年8月25日(火)発行 第3種郵便物認可の日本を考える動き検討会報告イラスト:PIXTA当たり、改めて、「下水道インフラのBHAG(大胆目標)」について、考えたいと思います2.「AFTER/WITHコロナ時代」 「AFTER/WITHコロナ時代」は、今までの価値観が大きく変化します。それに対するパラダイムシフト政策を提案していく必要があります。この状況の下、「AFTER/WITHコロナ時代」の日本を考える提言がすでにいくつか出ています。2-1.骨太の方針2020 7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020(いわゆる骨太の方針2020)」は、「AFTER/WITHコロナ時代」の政府の骨太の方針を示したものです。新型コロナウイルス感染症の下での危機克服と新しい未来に向けて、「国民の生命・生活・雇用・事業を守り抜く」とし、「新たな日常」の実現に向け、多くの政策が列挙されています。その中で、「ウィズコロナの経済戦略」・「デジタルニューディール」・「デジタルガバメント」・「多極連携型の国づくり」・「包摂的な社会の実現」等が目新しい言葉として出てきます。ただ、国家としての「財政の規律」に一歩も踏み込んでいない点が懸念されます。下水道インフラに関しては、「広域化計画の推進」と、「その計画の中に、システム標準化を含むデジタル化の推進の事項も盛り込むように」との記述があります。2-2. 土木学会パンデミック特別 土木学会は、6月に、家田仁新学会長を委員長とする「土木学会パンデミック特別検討会」を設置し、短期間に会議を重ね、7月14日に、検討会報告「COVID-19災禍を踏まえた社会とインフラの転換に関する声明-新しい技術と価値観による垂直展開-」を発表しました。 その中で、「下水疫学情報を活用した感染症流行検知システムの構築」を特記し、「下水中の病原ウイルスなどのモニタリングによる感染症流行の早期検知や終息状況把握の有効性について調査研究を推進する必要がある」と明記しているのは、注目です。3.「AFTER/WITHコロナ時代」の下水道インフラのBHAG20 「AFTER/WITHコロナ時代」の下水道インフラのBHAG(大胆目標)として、以下の20項目を挙げたいと思います。【雨水対策】(1) 下水道インフラによる雨水対策事業は、「雨水道」事業と呼ぶ。 豪雨の常態化の中、都市部における内水対策としての下水道インフラの重要性は、論を俟たないところです。しかし、国民の多くは、下水道インフラが雨水対策を担っていることを知りません。都市部に降った雨を安全に河川や海に排出するのは、下水道インフラの大きな役割です。PRが足りないこともありますが、いっそ、下水道インフラの雨水対策は、合流式下水道対策も含めて、「雨水道」と呼び、下水道法の中でも、「雨水道」を位置付けたらよいのではないでしょうか。話が極めて分かりやすくなると考えます。(2) 国家中枢機能・都市機能を守るために、重点的に「雨水道」インフラ整備を進める。「直轄雨水道」も視野に。 都市部で内水被害が生じると、国家中枢機能・重要な都市機能の麻痺、工場等の被害によるサプライチェーンの断絶等、政治経済活動で、取り返しのつかない被害が生じます。対策として、国が、雨水調整池等「雨水道」整備の費用効果分析を全国で行い、整備優先順位を付けた「雨水道緊急整備重点地域」を指定し、雨水道による都市内水対策を促進することが必要です。緊急に整備が必要なケースは、国による「直轄雨水道」も視野に入れるべきです。【衛生インフラそして情報インフラ】(3) 下水道インフラは、人間の命を衛まもる「衛生インフラ」であることを国民に広く伝える。 新型コロナへの対応において、「AFTER/WITHコロナ時代」のスタートに当たり、改めて、「下水道インフラのBHAG(ビーハグ)」を考える

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る