下水道の散歩道 第34-63回
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▲図4 IoT型センサーシステム    SkyManholeのシステムイメージ◀図3 下水道疫学(WBE)を活用した感染症対策への提案第3種郵便物認可 第1943号 令和3年5月18日(火)発行(41)です。その場合の年間調査費は、60億円です。下水道インフラの年間維持管理費が全国で1兆円ですから、そう大きな数字ではありません。これで、国民の安全・安心の情報把握に大きく貢献することを考えれば、毎年、国費100%負担で国民の税金を投入する意義は極めて大きいと考えます。3. 管路・マンホール内水位情報の下水道浸水対策への寄与 下水の「量情報」のモニタリングによる都市の安全・危機情報の把握・発信について、新技術の実装が進んでいます。具体的には、下水管路内やマンホール内に水位計を設置し、リアルタイムまたはオフラインで水位情報を把握、その情報を市の下水道局等行政部局に発信して、ポンプ運転の最適化・避難情報への活用等を図るものです。図4に、例として、㈱NJSの「SkyManholeシステム」を示します。このように、主に下水道インフラの雨水対策において、下水の「量情報」の計測による都市の安全・危機情報の把握が進んでおり、下水道インフラが「都市の情報インフラ」として、確固たる地位を築いています。4. 下水道インフラは、下水の質・量に関する情報の宝庫。今後、多種のセンサーの開発・進化により都市の安全・危機情報把握発信インフラとして大きな可能性 下水道インフラは、先に述べましたように、今や、都市の安全・危機情報を把握・発信する重要な「都市情報インフラ」であります。管路・処理場等都市の下水道インフラ施設には、都市中から、下水が流れ込んできます。今や、日本の大都市においては、下水道普及率がほぼ100%になっている都市も少なくありません。都市の汚水・雨水が下水道インフラ施設に流入してきます。都市内の社会・個人生活活動で排出されたすべての下水が放っておいても自然に24時間365日、管路・処理場に集まってきます。途中で、下水道インフラ系外に流出する下水はほとんどありません。また、下水インフラ系外から下水道インフラへ流入してくる水もほとんどありません。閉じられた系になっています。 それと、下水道インフラシステムは、ネットワーク・多重接続にはなっておらず、ある住居で排出された下水がどの処理場に到達するかは、一義的に決まっています。Aさん宅の下水は、X処理場にたどり着く、Bさんの下水はY処理場にたどり着くといった具合です。そのため、ある処理場で物質Kが検出されたら、その処理区(下水の集まってくるエリア)のどこかから、物質Kが排出されたとわかります。また、下水は、上流側から下流側へ向けて、一方通行で流れており、逆流はありませんので、管路の途中地点aで物質Mが検出されたら、その排出源は地点aより上流にあるとわかります。 この特性を使って、かつてより、海外において、下水管路内の水質分析を処理場から上流にたどっていくことによる麻薬常習者(麻薬常習者の尿・便より麻薬成分が下水へ排出)の住居を突き止める等が行われてきました。私自身も今から34年前、西ドイツのカールスルーエ大学の客員研究員として、カールスルーエ大学の研究者と二人で半年間、共同研究をしたことがありますが、その研究テーマの一つが、「下水道に継続的に重金属を無断で排出する違反事業者を、下水管内壁に付着したスライム(管の内壁に付着する微生物層)の分析を処理場から上流に向かって順次何か所も行うことによって追跡・特定する」というものでした。長期間継続的に重金属を排出していると、スライム中に重金属が蓄積されるため、犯人探しができるのです。半年間の調査で見事、違反事業者の特定に至りました。当時調査していた下水管の大きさは、人間が十分入れるほど大きな管路だったため、管路内を下流から上流に向かって歩きながら、管路内壁に付着したスライムの採取を毎日、行いました。日本人の中で、ドイツの下水管路内に滞在した時間の一番長い人間は、たぶん私だと思います。この調査もまさに、WBE調査手法と同類です。 以上のような下水道インフラの特性を生かすことによって、下水道インフラを活用した都市の安全・危機管理情報の把握が的確かつ効率的にできます。 今後、さらに、下水道インフラの「都市の情報インフラ」としてのミッションを高めていくための「キーワード」は、「センサー」だと私は考えています。ウイルスの検知にしても、採水して運搬して分析をする現状では、時間・コストは大変大きいものがあります。各種のウイルスを検知・分析するウイルスセンサー、細菌・有害物質等を検知・分析するセンサー、多くの物質を同時に検知するマルチセンサーなど下水中の物質を検知するセンサーの開発が望まれます。また、先述の下水の量を検知するセンサーのさらなる開発や管路そのものの老朽度や管路の外側の空洞を検知するセンサー、地震による管路の異常等を検知するセンサー等の開発も期待されます。各種センサーが検知・測定したデータを、IoTを活用して無電源(流水の動きによるわずかな振動エネルギーを活用した微電力発電等により)で送信し、都市の安全・危機管理に効率的かつ安全でコストスリムに活かす、そうした日の来るのも、そう遠くないと思います。

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