▲図1 下水道インフラの新たなミッション(使命・役割)下水道の散歩道㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1. 下水道インフラに新しいミッション(使命・役割)が加わった[第44回]第3種郵便物認可 都市の安全・危機情報把握発信インフラに―第1943号 令和3年5月18日(火)発行(39)下水道インフラは、都市の「情報インフラ」―下水道インフラのミッション(使命・役割)拡大、 イラスト:PIXTA装されています。これは、下水の「量情報」のモニタリングによる危機管理です。 このように、今や、下水道インフラは、「都市の情報インフラ」としても、確固たる地位を築きつつあります。2. 下水道疫学(WBE:Wastewater Based Epidemiology)の感染症対策への寄与の可能性(1) 海外・国内におけるWBE活 表1に示しますように、海外では、新型コロナウイルスの人口あたり感染者数が多く、下水中からコロナウイルスが高濃度で検出されることより、地域ごとの感染者密度の把握に活用したり、感染の拡大を予測したりする参考情報として活用されています。特に、オランダでは、全国のすべての処理場で継続的にWBE調査を実施しており、下水から検知された人口10万人あたりの新型コロナウイルス平均粒子数を全国の自治体ごとに毎週、公表しています。これにより、全国の感染状況の変化が明らかとなり、国としての新型コロナ対策の判断材料となっています。また、世界で、特に有効に活用されているのは、一定の施設・地域でWBE調査を行い、下水中からウイルスが検出されたら、そこで初めて、その施設・地域の全員にPCR検査をして、「ヒト」を特定し、隔離等を行うという、「スクリーニング調査」にWBEを使っていることです。表1のアリゾナ大学の例では、学生寮ごとにWBE調査を実施し、RNAが検出された寮ではすぐに全員のPCR検査をし、陽性と特定された3人をすぐに隔離したため、クラスターの発生を抑えることができました。このように、一定の施設・地域でWBE調査を実施し、RNAが検出されたところのみ、全員のPCR検査を行うという手法は、極めて効率的な考え方です。我が国でも、すでに、京都大学・島津製作所グループが、「京都モデル」と称して、京都府・京都市の協力のもと、京都の病院・介護施設等の下水の分析を始めています。(2) 国内におけるWBE調査の分析・解析手法の開発の現況 海外と比較し、ウイルス濃度の低い我が国の下水における検知手法が、ここにきて、新しく開発されてきました。今後、日本におけるWBE調査の活用において、極め用の現況 下水道インフラは、図1に示しますように、「土地の清潔保持」「都市の健全な発達」「公衆衛生の向上」「公共用水域の水質保全」「下水道資源・エネルギーの有効利用」「都市浸水対策」と、歴史とともに、ミッション(使命・役割)が追加認識され、拡大されてきました。私は、ここにきて、新たに、「都市の安全・危機等の情報を適時的確に把握・発信する都市の『情報インフラ』」としてのミッションが大きくクローズアップされてきたと考えています。きっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大です。現在、世界中で、感染者の便等からトイレを経由し下水管に流入してきた下水の中の新型コロナウイルスRNAの検出・濃度測定により、感染の拡大予測やある一定のエリア内の感染者有無の特定がなされています(このことを下水道疫学(WBE:Wastewater Based Epidemiology)と言います)。我が国では、感染者数が少なかったこともあり、この下水道疫学(WBE)が実用化されていませんでしたが、ここにきて、感染者の増加と、我が国で下水中のウイルス濃度が薄くても検知できる複数の手法の開発が進んだこともあり、一躍、注目されることとなりました。 国土交通省の検討委員会も3月にスタートしており、近く、WBEが新型コロナウイルス対策の判断材料の一つとして、活用されることになるのではないでしょうか。 下水中のウイルス・細菌・有害物質等を検知することにより、その集水域の安全性・危険性を把握することができます。定期的に定点でモニタリングを続けていけば、極めて有用な都市の安全・危機情報を把握することができます。下水の「質情報」のモニタリングによる危機管理です。 一方、下水管路内やマンホールの水位情報を水位計等により継続的に把握し、リアルタイムに情報を行政部局等に発信することで、マンホールからの溢水等、都市の浸水予測やポンプの最適運転に活用することが出来、㈱NJSの「Sky Manholeシステム」等が開発・実
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