下水道の散歩道 第34-63回
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第3種郵便物認可 第1941号 令和3年4月20日(火)発行(43)開発が進んでいるのが、量子インターネットです。極微の世界で成り立つ「量子(原子・電子・光子)力学」の法則を持ち込み、1000km以上離れた相手とのやり取りでも原理上情報が漏れることはありません。ただ、量子状態を保つため、有線で情報を送らなくてはいけないという制約があります。 ③の次世代蓄電池は、脱炭素化を目指し、電気自動車へのシフト、太陽光・風力等CO2を排出しないエネルギー創出の時代を迎え、注目の分野です。近未来にかけ、現在主流であるリチウムイオン電池のあとを担うであろう全固体電池の技術開発に注目が集まっています。全固体電池とは、電解液がなく、正極と負極の間に、セパレータのみがある電池で、その構成は、リチウムイオン電池と類似しています。全固体電池のメリットは、ⅰ.安全性が高い、ⅱ.超急速充電が可能、ⅲ.作動温度範囲が広い、ⅳ.劣化しにくい、ⅴ.液漏れが起こらない―です。デメリットとしては、固体電解質のため電極と電解質の界面抵抗が大きく電池としての出力を上げにくい、と言われていますが、電解液と同等以上の伝導性を持つ固体電解質材料の開発が進んでおり、近い将来には、この課題は克服されるでしょう。④のゲノム編集等は、医療分野、製薬分野、農業分野、食品分野、水処理分野等で極めて重要な役割を担う技術です。 この4分野には、日本政府挙げての徹底的な財政的・制度的・人的支援が必要です。日本が世界で然るべき地位を占め、存在感を示すのは、「技術力」です。「技術立国」の復権を強く目指すべきです。その際、開発された技術の持つ「技術国益」を国としてしっかり守ることも重要な視点です。4.下水道インフラ分野におけるイノベーション技術の動向と期待―「技術実装」への施策展開を 世界で主導権を握るための4技術について、上で述べました。下水道インフラの世界においてそう遠くなく実現できる可能性のあるこれら4技術関連のイノベーション技術として、以下があります。総額120兆円を目指す。 投資額等、積極的な計画で、大いに評価できます。新型コロナ対策の膨大な政府歳出が続く中ですが、未来の日本を考えると、何よりも重要な投資と私は考えています。是非、万難を排して、実現してほしいものです。3.世界の主導権を握る近未来のイノベーション技術は何か―政府挙げての徹底的支援を 半導体の例のごとく、我が国の技術は、決して進化していないわけではありませんが、二~三十年前と比べ、相対的に日本の技術力の国際競争力は間違いなく低下しています。 急速に社会・経済・国民生活の変化が起きる中、日本が世界の主導権を握っていくための「近未来のイノベーション技術」は何か。私は、次の4つの技術と考えています。①半導体② 量子コンピュータ、量子暗号、量子インターネット③全固体電池などの次世代蓄電池④ゲノム編集、ゲノム解析 上記のうち、①②は、DX(デジタルトランスフォーメーション)関連、③は、GX(グリーントランスフォーメーション)関連、④は、BX(バイオトランスフォーメーション)関連の技術です。①の半導体は、前述のとおりです。②の量子コンピュータは、超高速の処理速度により、劇的な革命をもたらす可能性がありますが、一方で、現在暗号化してインターネット等で送信している種々の暗号をその超高速処理により、短時間で解読してしまう可能性があります。それに対し、理論上、絶対破られない究極の暗号とされる「量子暗号」が実用化段階に来ています。原理は、量子の「測定すると重ね合わせ(パターン)が壊れる」という性質を使います。この性質のおかげで、もし悪者が情報を運んでいる量子を盗み取って測定すると、量子の重ね合わせ(パターン)を壊してしまいます。この結果、通信している人は、盗聴されたことに気付くのです。また、ネットの究極のセキュリティー対策としてア .ほとんどの水処理工程に生物処理を適用している我が国の下水道インフラにとって、ゲノム編集は、劇的な改革をもたらす可能性がある。ゲノム解析とゲノム編集による活性汚泥構成微生物の最適化により、処理効率・使用電力量を劇的に改善できる。イ .半導体を使ったAI(人工知能)や量子コンピュータの活用により、下水の処理効率を高めるとともに、精密な処理水質コントロールが可能となり、処理コスト低減に繋がる。ウ .ゲノム編集による高効率の微生物燃料電池の開発・消化ガス発電の高効率化等により、下水処理施設における高いエネルギー製造効率を達成できる可能性があり、蓄電池の技術開発と合わせ、下水処理施設が「地域のエネルギー供給基地」になる可能性がある。エ .ゲノム編集技術等により下水汚泥からの水素製造の効率が劇的に上がれば、全国の下水処理場が「地域の水素ステーション」になることも夢ではない。オ .NJS等で開発・実用化が進むGPSの届かない管路内を飛行・航行して管路の劣化状況を点検調査する「閉鎖性空間インスペクションドローン」も、蓄電池とAI・コンピュータの性能向上により、適用範囲・連続飛行航行時間・撮影画像からの判断精度等が大きく向上し、作業効率の向上とコストの低減が期待できる。 我が国の未来は、「技術力」の復活・進化にかかっていると言っても過言ではありません。このための「技術開発促進」「技術国益維持」の支援と、今後はその実施設への適用、即ち、「技術実装」が重要になってきます。開発した新技術が、実施設に採用されませんと、技術開発のモチベーションは上がりません。今後は、B-DASHの拡充、国庫補助・交付金制度における新技術採用の要件化等、国を挙げての「技術実装」実現のための強力な政策が求められます。

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