下水道の散歩道 第34-63回
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下水道の散歩道技術立国日本の復権と下水道インフラ―「技術開発」への徹底的支援・「技術実装」の㈱NJS 取締役 技師長 兼 開発本部長(公社)全国上下水道コンサルタント協会 企画委員長谷戸 善彦1.日本の半導体メーカーの凋落と復権に向けての動き[第43回](42)第1941号 令和3年4月20日(火)発行 第3種郵便物認可促進・「技術国益」を守る が鍵―イラスト:PIXTA増産という景気の波(シリコンサイクル)に大きく左右されてきました。そのため、半導体メーカーは、安定を求め、集約化が進み、現在は、ファウンドリーと呼ぶメーカー(受託生産会社)は、台湾のTSMC、韓国のサムソン等に集約されてきています。その間、日本企業は、演算処理を行うロジック半導体等、最先端半導体の電子回路の微細化製造技術で、TSMC等に圧倒的な差をつけられる状況となっています(真の日本の凋落の原因は、私は、日米半導体協定による米国の圧力に屈したことと、企業買収やスパイ行為等による海外への技術流出に対し国を挙げて「技術国益」を守れなかったことと考えています)。おりしも、新型コロナによる在宅勤務・リモート会議の進展等で、半導体需要が沸騰している中、半導体の不足が深刻になっています。その中で、米国、欧州は、経済安全保障上からも、自国で、半導体を製造すべく、TSMCの米国内半導体製造工場建設の誘致等を進めています。 現在でも、日本企業は、半導体材料や半導体製造装置の分野では、なお、大きな存在感を有しています。具体的には、半導体の基本材料となるシリコンウエハーでは、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの6割を占めています。東京エレクトロンは、半導体ウエハーに回路を作るため、光に反応する薬品を塗って現像する装置「コータ・デベロッパ」で、9割の世界シェアを持っています。このように素材や製造装置では、大きな存在感をいまだに示しているものの、半導体生産そのものは、技術的にも、大きく遅れてしまいました。今後の世界経済の発展・経 3月24日夜、経済産業省において、「第1回半導体・デジタル産業戦略検討会議」が開催されました。かつて、1980~1990年代に世界の半導体売上高の上位を独占し、世界を席巻した日本の半導体産業の凋落(2020年には世界上位10社に1社も入っていません)に重大な危機感を持っての緊急会合です。会議に出席した梶山弘志経産相は、次のように述べ、危機感をあらわにしました。 「ルネサスやTSMC(台湾積体電路製造)の生産動向は、世界の製造業の工場稼働率に直結する。強靭な半導体産業を持つことが国家の命運を握る。日本政府として、強い危機感を持っている。大胆な政策を打ち出したい」 AI・IoT・5Gの拡大等DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、今後は、デジタルインフラ・デジタル産業が、国家発展の大黒柱の一つになることは間違いありません。そのデジタルインフラ・デジタル産業を支える肝は、「産業のコメ」と言われる半導体です。昨年10月に、菅総理により、「2050年目標の温暖化ガス排出実質ゼロ(脱炭素化)」が打ち出され、GX(グリーントランスフォーメーション)が今後、急速に進みます。GX推進の柱は、多くの制御装置を駆使した自動運転のEV(電気自動車)と次世代蓄電池と考えられ、これらにも、半導体は必須です。従来、半導体は、バブル崩壊、リーマンショック等により、景気が落ち込むと、半導体使用製品の消費台数が落ち込み、減産を行い、また、景気が回復すると、済安全保障を考えるとき、この「半導体生産」は、最も、重要な核です。再度、1980年代のように、自前で最先端の半導体生産を復活させるという選択肢もありましょう。その際、民間企業論理(採算性等)だけでは、絶対不可能であり、日本政府による大規模な補助金等の支援が必須です。こうした国策にこそ、政府の歳出構成を大幅に変えてでも、国民の税金を集中的に充当すべきです。「技術国益」を国を挙げて育成し、守るという気概が重要です。2.Society5.0と第6期科学技術・イノベーション基本計画 半導体対策の検討会議が行われた同日の3月24日、政府の「総合科学技術・イノベーション会議」で2年間にわたり検討されてきた「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が決定・公表されました。その概要は、以下の通りです。① 現状認識として、ⅰ.米・中など国家間の覇権争いの激化、ⅱ.気候変動危機、ⅲ.GAFA等ITプラットフォーマーによる情報独占危機、ⅳ.新型コロナウイルス感染症の拡大による新たな課題の発生(感染症拡大防止と経済活動維持の両立、テレワーク等新しい生活様式への対応)、ⅴ.論文から判断しての国際的地位の低下傾向―を明示。② 我が国が目指す社会は、5年前策定の第5期科学技術基本計画で提示した「Society 5.0」とする。具体的には、ⅰ.SDGs達成を見据え持続可能な地球環境を実現できる社会、ⅱ.強靭で総合的な安全保障が実現された社会、ⅲ.一人一人の多様な幸せ(well-being)が実現できる社会を目指す。③ Society5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策としては、ⅰ.スマートシティー・スーパーシティーの創出、ⅱ.種々の社会課題を解決するための研究開発・社会実装の推進、ⅲ.一人一人の多様な幸せと課題への挑戦を実現する教育・人材育成の実現。④ 投資額として、2021年度からの5年間で政府の研究開発投資額30兆円、官民合わせた研究投資

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