下水道の散歩道 第34-63回
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際、今後の財政緊縮下における国の予算配分は「超マルチ効果(超マルチエフェクト)」を強く意識すべきことを財政当局等に訴える。第3種郵便物認可 第1933号 令和2年12月15日(火)発行(39)もっと厳しい意見が続きました。こうした中、下水道インフラの発展、とりわけ下水道インフラ関連予算の確保に向け、今後、下水道インフラ関係者が強く意識し、早急に検討し、対応すべき事項として、私は、次の(1)(2)の2点を挙げたいと思います。(1)社会資本整備予算は、今後、厳しい取り合いになる。予算の争奪戦への対応。 前記のように、財務省は、「社会資本整備予算は、量的拡大より配分の重点化」と言っています。今後、社会インフラ間で、激しい争奪戦になります。その場合、下水道インフラは、どう対応すべきか。ⅰ.ⅱ.の2点を、提案します。ⅰ.ウイズコロナ時代の下水道インフラの整備・更新・維持管理の引き続きの必要性・重要性のアピール コロナ対策として、減収となった企業・個人への現金給付等直接の財政補填は、直後は、必要ですが、一定期間が過ぎた時点で打ち切るべきです。しかし、景気・経済対策は引き続きの一定期間必要です。その際、真に必要な社会インフラへの投資は、社会資本の整備という本来の目的に加え、乗数効果の高さから景気・経済対策にもなる「マルチ効果(マルチエフェクト)」を有する点で、財政緊縮下において、大変理にかなった施策です。下水道インフラ関連では、政治・行政・防衛・外交・経済の中枢機能が下水道の不備による内水浸水により被災し、日本の国益を損なう可能性がある「都市部の内水被害」から国を守る「下水道内水対策の強化」、コロナ等疫病から国民を衛る清潔な国土を完成させるために未普及の1100万人が住む地域に下水道を完備させる「下水道未普及地域解消緊急対策」、疫病から国民を衛る衛生インフラである下水道の機能を適正に確保するための「老朽化下水道緊急更新対策」、これら真に必要な下水道関連投資を確実に執行できる国費確保が必須です。この選定・提示・アピールが重要です。ⅱ.差別化の強調。下水道インフラは、他の社会インフラと違った独特の特性を多く有している。このことを広くアピール。その 下水道インフラが、他の社会インフラと比べ、差別化できる特性として、大きいのは、「①環境・資源エネルギー創造インフラである」ことと、「②海外へも展開できる技術の宝庫」の2点です。①下水道インフラは、社会インフラ唯一の「環境・資源エネルギー創造インフラ」 多くの社会インフラは、その建設・維持管理の過程で、環境に悪影響を与えます。また、資源・エネルギーを消費します。これからの時代、SDGsを目指して、最も重視すべき国の行政テーマは、「環境」と「エネルギー」です。下水道インフラは、「環境保全・創造インフラ」であり、「資源・エネルギー創造インフラ」です。社会インフラの中では、唯一の「環境に優しく、自ら環境・資源エネルギーを創造するインフラ」です。②下水道インフラは、社会インフラの中で最も技術開発が進んでおり、技術の宝庫 下水道インフラ分野は、管路・ポンプ施設・水処理施設・汚泥処理施設と幅広い施設があり、また、設計・施工・維持管理・経営と業務内容も幅広く、多くの業種が関係しています。下水道インフラ関連の多くの分野で幅広い技術開発が進み、今後の海外展開に繋がる技術が生み出されています。一例として、私は、「活性汚泥法」が今後、劇的に進化するのではと期待しています。中世・近世に世界中の人類に脅威を与えたコレラ・チフス等の微生物の猛威を、下水道インフラは、その整備で、都市を清潔にすることにより、抑え込みました。ところがそれだけでなく、下水道関係者は、なんと、20世紀前半に、「活性汚泥法」というバイオテクノロジーを発明し、人類を脅かしてきた微生物を下水浄化に活用することに成功しました。現在、世界中の生活排水処理の大部分は、「活性汚泥法」で行われています。ただ、今までは、活性汚泥の個別の構成微生物の特定は困難で、活性汚泥はブラックボックスでした。それが、「次世代シーケンサー(遺伝子の塩基配列を超高速に読み出せる装置)」の開発と汎用化により、手軽に特定できるまでになってきました。処理場ごとに活性汚泥の構成微生物特定が可能となりました。これにより、微生物構成の変化による異常の早期発見、ビッグデータを活用しての当該処理場での最適微生物構成の提示、さらに最近研究開発が進んでいる「当該処理場の処理効率を高める微生物製剤」の特定とその人工的添加による処理効率の劇的向上、の可能性が出てきました。 財政緊縮下の予算支出においては、一定額の支出を、複数の効果(マルチエフェクト)、それも多重の効果(超マルチエフェクト)を生み出すものに活用できれば、国にとって大きな費用効果創出となります。下水道インフラは、先述の社会インフラ共通の景気浮揚・経済波及効果に加え、今述べた「素晴らしい環境を創造する」「資源エネルギーを創造する」「世界に展開できる新技術を生み出す」という多重効果を有しています。このような社会インフラは他にありません。財政緊縮下での今後のSDGs達成・2050年のCO2排出実質ゼロに向けて、国として舵を切っていくべきとき、下水道インフラほど必要性が高く、その上、多重の超マルチエフェクトを有する社会インフラはありません。(2)現行以外の新たな財源の検討。使用料の適正確保、PFIにとどまらず、本格的な新特定財源確保を真剣に検討。 早急に検討・対応すべき2点目は、新財源です。今後の財源論を考えるとき、「環境・エネルギー創造税」の新設を目指し、その税収で下水道インフラの更新・維持管理費用を生み出すという差別化戦略が考えられます。そのためには、下水道インフラの財源論を改めて議論し、国を挙げて負担論を確立する必要があります。 数年後以降、中長期的には、下水道インフラを巡る予算確保は、厳しい状況が予想されます。そうした中、本格的に骨太の議論を始めるべき時期に来ていると考えます。

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