下水道の散歩道 第34-63回
10/81

第3種郵便物認可 第1931号 令和2年11月17日(火)発行(35)も生じている。こうした中、下水道管理者は、雨水幹線整備や雨水ポンプ場整備を着実に行ってきたところ。一方、日本中の下水道管路48万キロの老朽化が進行しており、20年後には、3分の1の16万キロが50年の耐用年数を迎えることになり、下水道管路の老朽化は深刻。適切な維持管理・更新が必要。防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策の後も、必要十分な予算の確保に努め、対応してまいりたい」 赤羽大臣の答弁を踏まえ、下水道インフラの整備による内水氾濫対策が着実に進むことを期待したいと思います。4.下水道内水対策の重要性―内水氾濫による影響の甚大さは以前とは大きく違う 以上、述べましたように、内水氾濫対策について、政府内でも、危機感を持って、議論が進められています。内水氾濫は、人々の生命をも脅かす危険性を有しています。特に、大都市の地下鉄・地下高速道路・地下街の拡大の中、一歩間違うと、大惨事が発生する可能性は否定できません。従来の対応を超えた対策が求められます。 しかし、私が、「危険度・影響の甚大さが以前とは大きく違う」と訴えますのは、「情報の消失・デジタルコネクションの麻痺・デジタルネットワークの喪失破壊」というもう一つの観点も加えての主張です。デジタル化の急速な進行による影響の甚大化です。デジタル化の進む中、建物の効率的スペース配置の観点等から、ビルの地下階や一階に、電気関連施設・コンピュータ・サーバ等が数多く、収納されています。武蔵小杉のタワーマンションもそうでした。いままで、そうした重要施設に対し、地震対策は強く意識して対応してきましたが、水害対策、特に内水氾濫に対しては危機意識が極めて脆弱です。都市の内水氾濫起因の地下電気関連施設の水没による停電、コンピュータ関連施設の水没によるコンピュータ・サーバ等の停止により、政治・行政中枢機能、国際経済機能、防衛外交機密中枢機能等が、一瞬にして、喪失する可能性があります。また、都市内の工場・物流施設の内水被害により、サプライチェーンが分断され、グローバル規模で経済活動へ大きな影響が出ることも容易に想像できます。 今後の「国を挙げてのデジタル化の推進」の中、益々、内水対策は重要です。これらは、被害額そのものも大きいですが、むしろ、金額に換算できない取り返しのつかない甚大な被害が生じる危険性があります。大都市においても、外水被害の可能性はあり、防止すべく、流域全体を考慮し、ハード・ソフトを合わせた「流域治水」の考え方で対応すべきことはもちろんですが、都市部の局所的豪雨の頻発化・甚大化を考えると、内水被害の生じる可能性は今後ともすこぶる高く、都市の内水対策は、喫緊の課題であります。また、コロナ禍の中、内水氾濫による不衛生環境を発現させないという衛生面からも、内水対策は重要でしょう。先に述べましたように、下水道インフラ行政の歴史の中で、内水対策について、数々の対応を取ってきました。しかし、今日、内水被害が一旦生じた場合の深刻度は、かつてとは比較にならないほど大きくなっています。このことを改めて、強く、認識する必要があります。5.内水氾濫対策の具体的方向性 地球温暖化の影響の中、都市部の局所的・ゲリラ的豪雨は、今後、益々増大するでしょう。都市部のビル内の電気関連施設・コンピュータ関連施設・サーバ等の上層階への移設、安全地域への移設、防水化対応、リダンダンシーの整備は着実に進むでしょう。しかし、水は、必ず低いほうに流れ、水没を完璧に防止することは至難の業です。また、こうしたデジタル関連施設への対応はできても、都市の地下に存在する地下鉄・地下高速道路・地下街等、人々の往来する地下空間をなくすことはできません。むしろ、拡大の方向になる可能性もあります。こうした中、内水氾濫対策は、総合的に対応する他ありません。おのおのの分野で最大限の対応を目指すことです。その中で、ハード的には、下水道インフラの内水対策が要です。政治・行政・防衛・外交等国益に影響を与える可能性のある施設を抱える地域では、高い整備水準に対応した雨水貯留施設・下水道ポンプ施設の整備等下水道内水対策事業で、内水被害を徹底的に防止することが重要です。このように、都市内の重要区間・重要箇所等、地域の優先順位をつけ、事業の進捗を図ることが必要でしょう。 内水氾濫の特徴として、①降雨から浸水被害発生までの時間が短い、②河川から離れた地域でも浸水被害が発生する、③周辺に比べて低い場所は局所的に浸水危険度が高くなる―という特徴があります。①に対応して、今後、マンホールや下水管路の内部に水位センサーを設置して、リアルタイムに水位を行政等の指令基地に伝達し、AI等を活用してポンプの最適運転や緊急避難指示発令等に繋げる技術の採用も重要です。NJSの「SkyManholeⓇ」等コストが安く耐久性の高い実用化レベルの技術がすでに開発され、採用されています。②③に関しては、こうした地域特性を考慮して、下水道内水対策の優先順位を定めるべきでしょう。6.情報発信の必要性―  内水氾濫を国民に正しく 理解してもらう 国民に、内水氾濫の内容・実態・危険性・影響を正しく知っていただくことが基本です。外水対応との違いも含めて周知することが重要です。例えば、①地下空間は非常に危険なこと、②冠水している道路は、マンホールが開いている可能性もあり、非常に危険であり、できるだけ歩かず車でも走らないこと、③道路が冠水している場合、冠水している道路を通って避難しない。垂直避難で二階等に避難する―等です。 内水氾濫の大きな影響と対策の必要性について、発信を続けていかねばなりません。第一歩は、「内水」という言葉を多くの国民の皆さんに知ってもらい、「内水対策」は「下水道インフラが担っている」ことを知っていただくことです。「内水ハザードマップ」の存在を知り、見ていただくことも重要です。下水道インフラ関係者挙げて、国民への周知に努力していきたいものです。

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る